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パワハラはなぜ起きる? 原因とグレーゾーン・対処法について社労士が解説

パワハラはなぜ起きる? 原因とグレーゾーン・対処法について社労士が解説

近年、大企業や芸能界でもその被害が報告されているパワー・ハラスメント(パワハラ)。様々な対策が取られているにもかかわらず、いまだ大きな労働問題の一つであるパワハラがなぜ起こり、それをどのように見極めて対処するべきかについて、労働問題に詳しい社労士が解説します。

1)パワー・ハラスメントの現状

厚生労働省の調査によると、過去 3 年間のハラスメント相談件数について最も相談が多かったのはパワハラ(48.2%)でした。これは次点のセクハラ(29.8%)よりもかなり高い数値です。また、パワハラの類型別の集計ではパワハラでは「精神的な攻撃」(74.5%)が圧倒的に高く、次いで「人間関係からの切り離し」(20.6%)を大きく引き離す結果となりました。(図表参考)。
また、ハラスメント該当事案における行為者と被害者の雇用形態の関係では、パワハラを含む全てのハラスメントにおいて、「正社員から正社員へ」の割合が最も高く、さらに、「上司(役員以外)から部下へ」の割合が最も高いことがわかっています。

なお、こうした状況において対策として講じられている取り組みは「ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」の割合が最も高く、次いで「相談窓口の設置と周知」です。これらの取組はいずれも調査に回答した企業の約8割が実施していますが、特に社内窓口の利用については実効的な解決まで至らないケースも散見され、当事務所にもたびたびご相談が寄せられています。

参考 令和2年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省





2)パワー・ハラスメントの定義

職場で起こるパワハラとは、職場において行われる下記①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの

客観的にみて「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」については、職場におけるパワハラには該当しないものとされていますが、この「業務上必要かつ相当な範囲」の解釈については、パワハラと考えられる言動について下記のような内容を個別具体的に勘案して行われます。

・当該言動の目的
・当該言動を受けた労働者の問題行動の有無
・当該言動が行われた経緯や状況
・職場の業種・業態、業務の内容・性質
・当該言動がどのような頻度で行われているか(継続性)
・労働者の年齢、性別などの属性や心身の状況、行為者の関係性 

こうした項目を総合的に検討してパワハラかどうかの判断が行われるため、明快な線引きができない場合も多く、グレーゾーンになっている状況も見受けられます。

なお、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動などは業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であり、当然、職場におけるパワハラに当たり得るものと言えます。





3)パワー・ハラスメントが起こる原因

パワハラが起こる原因としては様々な指摘がされています。ここではそのうち代表的なものを紹介します。

①上司と部下のコミュニケーション不足

リモートワークの増加や働き方の選択肢が多様化したことにより、職場におけるコミュニケーションが不足したり希薄化するために、上司と部下の間に十分な信頼関係が構築できず、すれ違いや認識のずれがハラスメントの形で顕在化しています。経団連の調査では、ハラスメントに関する最近の相談動向・様態として「上司等の業務上の注意や指導をパワー・ハラスメントと捉え相談するケース」が挙げられています。

②ストレスの原因が多い職場環境

失敗に対し不寛容であったり、過大な目標への達成状況の低さを責めるような社風があったり、遵守しなければならない規則が多いなどの職場環境では、労働者がストレスを感じやすくなります。特に通常達成不可能な目標を掲げたり、長時間労働が恒常化している場合、常にトラブルが起きやすくなり、そのためにさらに仕事が増える……という悪循環が発生しがちです。ストレスが多い職場ではメンタル不全を起こす労働者も発生しやすくなり、結果としてさらに人手不足が生じ、さらに職場環境が悪化することも起こり得ます。こうした職場では相手に対する配慮の余裕を欠き、また受け止める側も余裕がない状態であるために、深刻なハラスメントに発展しがちです。

➂アンコンシャスバイアスや相手に対する知識不足

女性や障碍者、高齢者、LGBTQ+など、現在組織が抱える人材は多様化しています。そのため、言葉そのものの解釈が多義的になったり、労働者個々の存在の背後にある文化的・社会的な背景に対する知識不足が原因で、配慮に欠ける言動になることがあります。
私が実際対応した例では、不妊治療中の労働者が育休復帰後の労働者の業務量を子供がいないという理由で引き受けざるを得なくなり退職に追い込まれた例や、育児中だからと仕事量を配慮した上司に対し、部下が仕事を取り上げられたと感じて相談窓口にパワハラを訴えてきた例があります。これらの事例の背後には、上司・部下ともに自分本位で考えてしまう姿勢や、「自分が相手ならこの対応をどのように感じるか」という視点がありません。良かれと思ってとった対応が相手にとって本当に良い選択になるとは限らないので、アンコンシャスバイアスに配慮したり、相手の事情を尊重する姿勢を持ち、「自分は相手の事情について知識不足である」という自省を持つことが重要です。





4)パワー・ハラスメントのグレーゾーンの事例

ここでは、実際に当事務所に寄せられたパワハラ事例のうち、グレーゾーンと考えられるものを3つご紹介します。

①軽度な職務違反を他の従業員の前で注意した事例

介護施設で働くAさんは自分の部下であるBさんの勤務態度に手を焼いていました。Bさんは利用者からの評判は良かったのですが、自分のやり方を曲げず、記録不備が多いなど利用者が混乱するような事例が頻発しました。Aさんはそのような報告を他のスタッフから受ける都度、Bさんに個別に注意していたのですが、あまりにたびたびそのようなことが起こったので、スタッフ控室で「Bさんのそういうやり方で私たち全員が迷惑している」「ここはチームワークをする場だから、Bさんのやり方でやりたいなら他所で働いて」と声を荒げました。ちょうどお昼休憩の時間に差し掛かったところで、控室には数人のスタッフが残っていました。Bさんはこれをパワハラと感じ、退職しました。

②仕事のクオリティに対し繰り返し指導を行った事例

営業の仕事をしているSさんは自分の課内の新入社員Tさんの作成した資料に毎回必ず目を通し、注意・修正指示を与えています。Tさんの資料には記載すべき情報が漏れていたり、抜けがあったりしたことがあるからです。しかしTさんはいつまでも半人前扱いされることに抵抗を感じ、パワハラではないかと考えるようになりました。Sさんは親心めいた気持ちで微に入り細をうがった指導を続けましたが、入社1年ほど経過したところでTさんから休職の申し出がありました。Tさんが持参したメンタルヘルスクリニックの診断書には、「業務指導が過多である」という文言が記載されており、Sさんは会社から行き過ぎた指導について叱責されました。

➂仕事中の身だしなみ・清潔感について注意した事例

飲食店の店長を務めるYさんはアルバイトスタッフのZさんの身だしなみが飲食店にふさわしくないと感じています。具体的には爪の間に汚れが溜まっていたり、シャツの襟足が少し黒ずんでいたりするのです。飲食店という場所からも清潔感のある身だしなみは就業規則でも求めており、Zさんも最初はきちんと身なりを整えてきてくれていたので、Yさんは気になった都度バックヤードでそのことを指摘しました。Zさんは毎回不服そうな顔でそれを聞いていましたが、あるとき「自分はきちんと洗った服を着ているし爪も短く切っている、店長のこれはパワハラじゃないんですか」と言い返してきました。






5)パワー・ハラスメントのグレーゾーンが発生する理由

パワー・ハラスメントの判断がグレーゾーン化するのは、主に下記の3つの理由からです。

①パワー・ハラスメントに関する正しい定義を上司・部下とも理解していない

職場におけるパワー・ハラスメントは先にみたように「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要素を満たして初めて成立するものです。
しかし、この定義を正しく理解しておらず、上司・部下の双方が誤解のもとにパワハラという言葉を使うようなケースでは、そもそも「何が」パワハラに該当する言動なのかの判別があいまいになり、グレーゾーン化する傾向がみられます。
そのため、法律的な定義や判例をもとに、どのような事例でどのような判断が下されたのかについて多く情報に触れることが大切です。

②パワー・ハラスメントの加害者に加害している自覚がない

私にパワー・ハラスメント研修をご依頼くださる企業の多くが共通して抱えている悩みが、加害者側に加害している自覚がないということです。
問題が顕在化したり、相談窓口に相談があって初めてパワハラ加害者は「自分が加害者として認識されている」という自覚を持つことがほとんどです。信じがたいような暴言を言っている人であっても、「ちょっと言い過ぎただけ」「あれぐらいいつものこと」「いじることで社内の空気が良くなる」と考えている人がほとんどなのです。
また、「本人のためを思えば納得するまで話をするのは当然」と、完全な善意の行動の結果としてパワハラに発展させてしまうケースもあります。
このような加害者の行動を会社として是認してしまうと、パワハラのグレーゾーンが肥大化し、明白なパワハラに発展してしまうリスクがあります。

このような事例の場合、加害者は告発されて初めて自分が加害したという事実を知ることがほとんどです。
したがって、こうした加害者ないし加害者予備軍に対しては、「何をもってパワハラとされるのか」という要件定義について具体的な情報をもとに伝えていくことが重要です。「これくらい」と自分が考えているラインが「これくらい」では済まされないことをきちんと企業として教育していくことが求められます。

③パワー・ハラスメントに対し過剰反応してしまう

パワー・ハラスメントの定義理解があいまいなために、誤解が先行してしまい、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」についてもパワハラだと受け取ってしまう労働者もいます。
こうした労働者の場合、自分に正当性があると考えていることも多く、そのため上司に対して攻撃的な態度をとってしまうこともあります。それがさらに上司のパワハラを誘発する事例も散見され、適切な業務指導の様態・範囲については部下側にも十分な周知が必要です。






6)パワー・ハラスメントの対処法として取るべき5つのステップ

パワハラはいったん起こると、加害者・被害者の双方に深い傷を作ります。また、当事者だけではなく社内の関係にも負の影響を与えます。こうしたパワハラから労働者と組織を守るために行うべき対策について説明します。



①正確なパワハラの定義を学び、具体的事例を知る

パワハラと思われることを恐れるあまり、適切な業務指導もできないような状況では組織として成長することができません。したがって、上司・部下ともに正確なパワハラの定義を学び、具体的な言動に照らしてどのようなものがパワハラと認定されるのかを知ることが重要です。昨今では労働者側もパワハラに対し敏感になっていますので、適切な業務指導の範囲について上司・部下ともに認識を合わせておくことも大切です。

②適切な人員配備・業務量管理を行い、負荷を標準化する

処理できる人員数・リソースに対し業務量や工数が増えてくると余裕がなくなり、その結果として失敗や未達成に対する不寛容な社風になります。そのため、組織は全体最適の視点を持ち、部署ごと・労働者ごとに適切な業務量の調節を行わなければなりません。仕事量を減らすことが難しい場合は人員を増員するほか、アウトソーシングする、または作業そのもの辞める決断をするなどの決断が求められます。

➂多様な価値観・背景があることを知り、尊重する姿勢を持つ

パワハラが起こる原因の原因でもあるコミュニケーション不足や多様性への配慮の欠如への対応として、アンコンシャスバイアスについて学んだり、異なる属性・文化について知りそれを尊重する姿勢を持つよう動機付けします。
アンコンシャスバイアスは無意識の偏見とも呼ばれますが、無意識であるがゆえに意図せず差別的な言動につながったり、排他的な思想になっていることもあります。どういったアンコンシャスバイアスがあるか、それがどのように表れるかを知ることで、自身が多くの偏見を有していることを認識でき、意識することが可能になります。
また、同様に異性のライフサイクルを学んだり、世代ごとの考え方の違い、触れている情報の範囲や解釈を学ぶことは、個々の労働者一人一人の考え方が違うことを認める姿勢につながります。

④上司側にも適切なマネジメント、ストレスケアを行う

聞き取りを行っていると、パワハラ加害者となっている上司側にも相応のストレス原因がある場合も多く見受けられます。
働き方改革以降、上司(管理職)の立場に求められる責任は重く、特に長時間労働を防止するための取り組みが科せられる組織はすくなくありません。そのため、一層上司側に業務管理や各種調整などが期待されており、それ自体がストレスになっている上司も存在します。こうした状況を放置すると、自身の身を守るために上司も部下に対して要求水準が高くなり、自覚なく乱暴な物言いをするようになったりすることも多いため、上司自身にも適切なマネジメントや業務量の管理・把握、部下指導についてより上席からアドバイスを受けるなどの時間を設けたり、ストレスがすでにある場合はストレスチェックなども用いながら適切なケアを受けられるような環境を整備しましょう。

⑤適切な社外の相談窓口を設け、相談後の対応を徹底する

パワハラ防止法をはじめ、現在各法律でパワハラ、セクハラ、マタハラ等各種ハラスメントの相談窓口を設けることが法律で要請されています。この窓口の設置場所は社内・社外を問いませんが、社内設置の場合は担当者との相性や社内の人間関係に配慮して相談することをためらうケースも多いため、最初は匿名で相談できる、相談対応者を複数から選択できるなどの対応をしていくことが必要です。また、相談対応者が意図せず相談者を傷つけてしまうこともあるため、継続的な研修受講など相談対応者自身の知識・傾聴スキルを磨くことも求められます。
社外に相談窓口を置く場合は、外部の人間であるため相談しやすいというメリットがあります。また、社内相談窓口と異なり専門性の高い人材を相談員として配置することが可能です。





7)当事務所のパワー・ハラスメント対策メニュー

当事務所では、パワハラ防止及び再発が起こらない企業風土の実現のため、様々な対策メニューをご用意しています。

*ハラスメント研修 
*アンコンシャスバイアス研修
*労務管理研修
*チケット制労務相談対応(スポット利用可)
*ハラスメント社外相談窓口

ぜひ貴社の健全な発展のために当事務所をご活用ください。















この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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