ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)とは、「パワハラと言われるハラスメント」「逆ハラスメント」とも言われ会社の健全な成長を阻害するものです。ここではハラハラが発生する背景や原因、その悪影響ならびに対策の仕方について社労士が解説します。
1)ハラスメント・ハラスメントとは?
ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)とは、管理職や上司が適切な指導をしているにも関わらずパワハラやセクハラなどの加害行為であると指摘される事象や、単に自分が不快である状況について相手に対しハラスメント加害を訴える行為をさします。同様の事象を指す言葉には「パワハラと言われるハラスメント」「逆ハラスメント」などがあります。
2)ハラスメント・ハラスメントが生じる背景
日本において職場におけるハラスメントが法に初めて規定されたのは、1997年の男女雇用機会均等法の改正におけるセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という)の禁止規定です。この法改正では女性労働者に対するセクハラ対策として事業主に雇用管理上の配慮義務が規定されました。その後2006年の同法改正で男性労働者に対するセクハラも含めて、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられました。
また、2022年に改正労働施策総合推進法が全面施行されました。この法令ではパワー・ハラスメント(パワハラ)の防止に対し、下記のように企業の義務を定めており、これがパワハラ防止や対策を行う直接的な根拠規定になっています。
この項目違反の明確な罰則はありません。しかし、厚生労働省からの指導や勧告の対象となり、またその勧告に従わなかった場合にはその旨が公表されるという社会罰的な規定が置かれています(労働施策総合推進法第33条第1項)。
こうした法整備や世論の形成に伴い、セクハラはパワハラは重大な人権侵害であり、決して許されるものではないことは周知の事実になりました。しかし、同時にセクハラ・パワハラをはじめとした職場のハラスメントに対する誤解や認識不足、自身が正当な業務指導や指摘を受けているにもかかわらず、それを受け止められずにハラスメントだと糾弾してしまう現象が生じている現状があります。
また、2022年に改正労働施策総合推進法が全面施行されました。この法令ではパワー・ハラスメント(パワハラ)の防止に対し、下記のように企業の義務を定めており、これがパワハラ防止や対策を行う直接的な根拠規定になっています。
第三十条の二(雇用管理上の措置等)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
この項目違反の明確な罰則はありません。しかし、厚生労働省からの指導や勧告の対象となり、またその勧告に従わなかった場合にはその旨が公表されるという社会罰的な規定が置かれています(労働施策総合推進法第33条第1項)。
こうした法整備や世論の形成に伴い、セクハラはパワハラは重大な人権侵害であり、決して許されるものではないことは周知の事実になりました。しかし、同時にセクハラ・パワハラをはじめとした職場のハラスメントに対する誤解や認識不足、自身が正当な業務指導や指摘を受けているにもかかわらず、それを受け止められずにハラスメントだと糾弾してしまう現象が生じている現状があります。
3)ハラスメント・ハラスメントが生じる原因
ハラハラは、主に職場でのハラスメントに関する誤解・理解不足、自己正当化バイアスから生じます。それぞれ解説します。
職場でのハラスメントに関する誤解・理解不足がある
そもそもハラスメントとは、ハラスメント(harassment)は「いやがらせ」「いじめ」などの迷惑行為を指す言葉です。この言葉自体は職場におけるものに限定されるものではありません。例えばインターネットにおける誹謗中傷行為はその内容や程度・様態によって名誉棄損や侮辱罪などの刑事責任を問われる可能性があるなど、幅広い範囲に使われうるものです。
しかし、職場におけるハラスメントは、安全配慮義務などを含む使用者の責任下にあるものとして、行政罰を科されるものとなっています。そのため、職場におけるハラスメントにはセクハラ・パワハラともに明確な定義がおかれています。具体的には下記のとおりです。
しかし、こうした定義に対する誤解や無理解などから、業務上や職場の服務規律維持のうえで必要な指導も含めて不快だと感じたときにハラスメントだと感じてしまうことがあるようです。
しかし、職場におけるハラスメントは、安全配慮義務などを含む使用者の責任下にあるものとして、行政罰を科されるものとなっています。そのため、職場におけるハラスメントにはセクハラ・パワハラともに明確な定義がおかれています。具体的には下記のとおりです。
・セクハラの定義
職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害すること
職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害すること
・パワハラの定義
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの
しかし、こうした定義に対する誤解や無理解などから、業務上や職場の服務規律維持のうえで必要な指導も含めて不快だと感じたときにハラスメントだと感じてしまうことがあるようです。
自己正当化バイアスの影響がある
自己正当化バイアスとは、正常性バイアスとも呼ばれる人間の認知のありかたを指す言葉で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、自分の意見と合わない情報を無意識に目に入れないようにすることで、自分を正当化する人間の認識のゆがみのことです。
例えば自分が分譲物件を購入するとき、「このハウスメーカーはいいハウスメーカーだ」と思っていると、そのハウスメーカーに関する悪い口コミや情報は無意識的に排除し、反対にその判断を補強するようなよい口コミ、好意的な評価を表す情報ばかりを集めてしまうというような状況を指します。
こうしたバイアスがあり、「自分は悪くない」と考えがちな人は自分に瑕疵があっても、それを指摘されたり改善を促されると自分の行動を正当化する考え方、言説ばかりを集めてしまうことになりかねません。
もちろん、自身の人権や尊厳を脅かすような言動を受けた場合は直ちに心身の安全を確保しなければなりません。しかし、職場において労働契約の履行に必要な範囲における指導や指摘を受け入れる必要性についての認識もまた不足している状況が、ハラハラの原因と言えるでしょう。
例えば自分が分譲物件を購入するとき、「このハウスメーカーはいいハウスメーカーだ」と思っていると、そのハウスメーカーに関する悪い口コミや情報は無意識的に排除し、反対にその判断を補強するようなよい口コミ、好意的な評価を表す情報ばかりを集めてしまうというような状況を指します。
こうしたバイアスがあり、「自分は悪くない」と考えがちな人は自分に瑕疵があっても、それを指摘されたり改善を促されると自分の行動を正当化する考え方、言説ばかりを集めてしまうことになりかねません。
もちろん、自身の人権や尊厳を脅かすような言動を受けた場合は直ちに心身の安全を確保しなければなりません。しかし、職場において労働契約の履行に必要な範囲における指導や指摘を受け入れる必要性についての認識もまた不足している状況が、ハラハラの原因と言えるでしょう。
4)ハラスメント・ハラスメントが与える悪影響
ハラハラは職場において大きな悪影響を与えます。ここではその代表的なものを紹介します。
上司・管理職者がハラハラを恐れて適切な業務指導を怠るようになる
上司・管理職者や先輩社員にとって部下・後輩などのメンバーに対する業務指導は人材育成の観点でも業務のクオリティ・コントロールの観点でも重要ですが、ハラハラが横行すると、パワハラと指摘を受けることを恐れて適切な指導も避けたり、怠るようになります。事実、弊社の研修でも「こんな風にハラスメント防止と言われると、もう何も言えない」という感想を寄せられる方は多いのです。また、いったんハラスメント加害者と指摘を受けると社内における自身の立場が危うくなる場合も多く、本来業務としておこなうべき指摘や指導を怠る可能性があります。
部下・メンバーの成長が阻害される
米国ミシシッピ大学ビジネススクールのノエル・M・ティシー教授が提唱した理論によると、人間が成長するためには3つの段階があります。一つ目はコンフォートゾーンで、自身にとって快適で、限られた職務範囲や人間関係である状況を指しています。二つ目は適度なストレス(負荷)がかかるストレッチゾーン(ラーニングゾーン)で、ここはコンフォートゾーンが拡張された状態になります。なお、三つめはパニックゾーンで、心身共にストレスが過重にかかってしまう状態をいいます。
仕事での成長のためにはコンフォートゾーンから出てストレッチゾーンの仕事をおこない、コンフォートゾーンを拡張していくことが求められます。しかし、この移行が自発的ではなく業務分担によっておこなわれる場合、パワハラ類型のうちのひとつ「過大な要求型」と結びつきやすくなります。過大な要求型のパワハラはパニックゾーンの仕事の付与や業務量の負担を与えることで起こりますが、ストレッチゾーンの業務内容・範囲であってもストレスはかかるため、本人にとってはハラスメントと感じ苦痛を覚える可能性があります。
仕事での成長のためにはコンフォートゾーンから出てストレッチゾーンの仕事をおこない、コンフォートゾーンを拡張していくことが求められます。しかし、この移行が自発的ではなく業務分担によっておこなわれる場合、パワハラ類型のうちのひとつ「過大な要求型」と結びつきやすくなります。過大な要求型のパワハラはパニックゾーンの仕事の付与や業務量の負担を与えることで起こりますが、ストレッチゾーンの業務内容・範囲であってもストレスはかかるため、本人にとってはハラスメントと感じ苦痛を覚える可能性があります。
組織内のコミュニケーションが阻害される
職場の円滑な人間関係の維持のためには適切なコミュニケーションが必要です。厚生労働省の調査によれば、ハラスメントの経験者と未経験者とで職場の特徴の回答を比較すると、パワハラ・セクハラとも「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」という回答項目でハラスメント被害者の回答割合が未経験者より高く、その差も大きくなっています。
しかし、髪型を変えたことを話題にしてセクハラと指摘を受けたり、資料の修正を依頼してパワハラと言われるなどハラハラがある状態では、メンバー間でも話題に困り、会話をしなくなるといった可能性もあります。
職場は仕事の場であり、本来業務に必要のない話題は慎むべきです。しかし、ハラハラによって適切な話題選びのストレスを増加させると適度な会話量を維持することが困難になる可能性が予測されます。
しかし、髪型を変えたことを話題にしてセクハラと指摘を受けたり、資料の修正を依頼してパワハラと言われるなどハラハラがある状態では、メンバー間でも話題に困り、会話をしなくなるといった可能性もあります。
職場は仕事の場であり、本来業務に必要のない話題は慎むべきです。しかし、ハラハラによって適切な話題選びのストレスを増加させると適度な会話量を維持することが困難になる可能性が予測されます。
5)ハラスメント・ハラスメントを予防するには
ハラハラを予防するには、次のような内容が有効です。
ハラスメントに対する理解を深める
パワハラ・セクハラに対するハラスメント研修を実施し、全社員が同じ認識をもってハラスメント防止に関わることはハラハラ対策としても有効です。できれば階層別研修だけではなく、縦断的・横断的なメンバーでの研修を実施していきましょう。
労働者の義務について再確認する
社員に対し、労働契約に関する知識を深めてもらう目的で労務管理研修をおこなうことも有効です。ここでは労働者に対し労働契約について労働者側にも業務専念義務や労働の報酬としての対価支払などの義務を認知してもらい、業務指導をおこなうための素地を作ります。
自己正当化バイアスについて知る
ハラハラの原因になる自己正当化バイアスはアンコンシャス・バイアスの一つです。こうしたバイアスがあること、それがどのようなときに発動しやすいかを認識することで、ハラハラの防止につながります。