現代の職場環境において、パワーハラスメント(パワハラ)は従業員の精神的および肉体的健康に重大な影響を与える深刻な問題です。パワハラの疑いが生じた場合、その判断をどのように行うか、また対応をどのように決定していくかは企業にとって重要かつ緊急の課題となっています。本記事では、パワハラの判断基準と発生した場合と対応策について詳しく解説し、健全で働きやすい職場環境を築くための具体的なステップを紹介します。
パワハラの判断基準
職場でパワハラが発生した場合、適切な判断基準に基づいて対応することが重要です。
パワハラ(パワーハラスメント)は、「業務の適正な範囲」を超える言動が対象となります。具体的には、業務に関係があり、必要性が認められる範囲内での指導や指示はパワハラには該当しません。
パワハラ(パワーハラスメント)は、「業務の適正な範囲」を超える言動が対象となります。具体的には、業務に関係があり、必要性が認められる範囲内での指導や指示はパワハラには該当しません。
パワハラに該当する業務指導の例
・殴る、蹴る、机を叩く、物を投げるなど明らかな暴力行為を伴う指導
・「バカ」「無能」など人格否定を伴う指導
・長時間立たせる、衆人環視での罵倒など一般的に考えて行き過ぎた指導
・「バカ」「無能」など人格否定を伴う指導
・長時間立たせる、衆人環視での罵倒など一般的に考えて行き過ぎた指導
パワハラに該当しない業務指導の例
・事実を指摘し、改善案を提示・検討する指導
・具体的な手順を示し、改善を要望する箇所について理由と共に説明する指導
・問題解決のためのプロセスを共に検証するような指導
・具体的な手順を示し、改善を要望する箇所について理由と共に説明する指導
・問題解決のためのプロセスを共に検証するような指導
グレーゾーンの判断基準
グレーゾーンに該当する事案の場合、パワハラかどうかを判断する際の基準は主に「業務上適正な範囲」と「社会通念上、常識的に受け入れられる範囲内であるかどうか」の2点から検討します。
業務の適正な範囲
「業務上適正な範囲」とは、その指導・指示が職務を遂行する上で合理的かつ必要とされる範囲内での指導・指示になるかというものです。社員の育成は管理職者の正当な業務です。ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ、逆パワハラ)を恐れて指導を行っては職務遂行ができないほか、会社の生産性低下などの悪影響にも繋がります。
相手の尊厳を十分に尊重したうえで、合理的に必要性があり、具体的な内容で建設的に指導が行われる場合はパワハラには当たりません。
相手の尊厳を十分に尊重したうえで、合理的に必要性があり、具体的な内容で建設的に指導が行われる場合はパワハラには当たりません。
社会通念上、常識的な範囲
「社会通念上、常識的な範囲」とは、その指導・指示が客観的に見て常識的、妥当な範囲かどうかということです。例えば指導の内容自体は妥当なものであっても、10人が見て10人とも「やりすぎ」だと考えるような言い方や指導法ではパワハラと認定される確立が高まります。また、同じ内容について繰り返し指導したり、場当たり的に一貫性のない指導を繰り返して振り回すなどの行動は社会通念に照らしてその合理性について疑問が持たれます。
職場でパワハラが発生した場合の対応フロー
ハラスメントは職場において重大な問題であり、その発生後に迅速かつ適切に対応することが求められます。以下では、ハラスメント発生後の対応フローについてステップごとに説明します。
相談
ハラスメントが発生した場合、被害者は、通常、上司や人事部門、相談窓口に対して相談を行います。このステップは問題の認識と初期対応のための重要なプロセスです。なお、この相談窓口の設置はパワハラ防止法により規模を問わずすべての企業で義務化されています。
相談窓口は対面だけではなく、メールや電話、社内SNSなど複数の相談方法を持つことが望ましいです。また、第一報は匿名でも受けられるようにすると相談のハードルが下がるでしょう。
企業においては窓口を設置しただけで対応を終えていることもありますが、それだけでは設置した意味がありません。ここでのポイントはきちんと設置したことを社内に周知し、窓口としての機能を発揮することです。
特に、相談対応者の教育は極めて重要です。窓口対応によって、被害者がセカンドハラスメントを受ける可能性があり、事態をより深刻化させる恐れがあるからです。セカンドハラスメントとはハラスメント行為の被害を受けた人が、その事実を第三者に相談した際に受ける、2次的なハラスメントのことを言います。こうしたことが起こらないよう、企業は定期的に研修を実施したり専門家を配置するなどの対策が求められます。
相談窓口は対面だけではなく、メールや電話、社内SNSなど複数の相談方法を持つことが望ましいです。また、第一報は匿名でも受けられるようにすると相談のハードルが下がるでしょう。
企業においては窓口を設置しただけで対応を終えていることもありますが、それだけでは設置した意味がありません。ここでのポイントはきちんと設置したことを社内に周知し、窓口としての機能を発揮することです。
特に、相談対応者の教育は極めて重要です。窓口対応によって、被害者がセカンドハラスメントを受ける可能性があり、事態をより深刻化させる恐れがあるからです。セカンドハラスメントとはハラスメント行為の被害を受けた人が、その事実を第三者に相談した際に受ける、2次的なハラスメントのことを言います。こうしたことが起こらないよう、企業は定期的に研修を実施したり専門家を配置するなどの対策が求められます。
調査委員会の立ち上げ
ハラスメント被害を把握したら、企業は調査委員会を組織します。
調査委員会はかならずしも常設である必要はなく、また法的な人数要件などもありません。パワハラの対応において必須のものではありませんが、個人に対応を任せた場合、その個人が逆恨みされたり、また個人のアンコンシャスバイアスや先入観から誤った判断をくだす恐れがあるため、複数人のチームである調査委員会を作ることを強くお勧めします。
調査委員会は懲戒処分や再発防止措置を検討するプロジェクトチームです。妥当性の観点から労使双方の人選や人事や法務、社労士などの外部専門家など複数名で構成することが望ましいと言えます。パワハラは時間の経過により悪化する場合がありますので、速やかに対応できるよう平常時より組織化しておくとよいでしょう。
調査委員会はかならずしも常設である必要はなく、また法的な人数要件などもありません。パワハラの対応において必須のものではありませんが、個人に対応を任せた場合、その個人が逆恨みされたり、また個人のアンコンシャスバイアスや先入観から誤った判断をくだす恐れがあるため、複数人のチームである調査委員会を作ることを強くお勧めします。
調査委員会は懲戒処分や再発防止措置を検討するプロジェクトチームです。妥当性の観点から労使双方の人選や人事や法務、社労士などの外部専門家など複数名で構成することが望ましいと言えます。パワハラは時間の経過により悪化する場合がありますので、速やかに対応できるよう平常時より組織化しておくとよいでしょう。
当事者ヒアリング
調査委員会が組織されたら、当事者の双方からヒアリングを行います。
当事者とは被害者と、加害行為をしたとされる相手(行為者)をさしており、このヒアリングでは、当事者それぞれから言い分を公平に聞き、事実関係を確認します。
被害者に対するヒアリングでの注意点は、聞き手が先入観を捨てて公平公正な姿勢で行うことです。被害者は自身が受けた被害について語る際に辛い記憶を思い出すことになります。したがって、問い詰めるのではなく傾聴の姿勢で聞きましょう。この際に被害者が望む対応も確認します。また、実際に健康被害がすでに生じているような場合は医師の診察を受けるよう専門家に繋げます。
行為者に対するヒアリングでの注意点は、行為者がそのまま「加害者」になるとは限らないという前提を置くことです。明らかな暴力行為、人格否定などの暴言は別ですが、パワハラの場合はグレーゾーンの判定をどのようにするかを見極めることが重要です。そのため、どのような頻度でどのような言動があったか、という点も認定に当たって重要な判断基準になります。被害者がパワハラだと訴えてきても、行為者の言動は適切な業務指導の範囲だと判断されることもよくあることです。したがって、行為者自身の名誉を守る必要を当初から念頭に入れてヒアリングを行いましょう。
また、実際に加害行為があった場合でも、行為者が無自覚に加害している場合は指摘を受けることで行為者も精神的なショックを受ける恐れがあります。そのため、まずは丁寧に当事者双方から「事実」を詳細に時系列に沿って聞き取ることが大切です。
なお、この時点で加害行為についてどの程度の懲罰が妥当かを判断することは早計です。まずは当事者間の認識のずれ、事実関係の把握に努めましょう。
当事者とは被害者と、加害行為をしたとされる相手(行為者)をさしており、このヒアリングでは、当事者それぞれから言い分を公平に聞き、事実関係を確認します。
被害者に対するヒアリングでの注意点は、聞き手が先入観を捨てて公平公正な姿勢で行うことです。被害者は自身が受けた被害について語る際に辛い記憶を思い出すことになります。したがって、問い詰めるのではなく傾聴の姿勢で聞きましょう。この際に被害者が望む対応も確認します。また、実際に健康被害がすでに生じているような場合は医師の診察を受けるよう専門家に繋げます。
行為者に対するヒアリングでの注意点は、行為者がそのまま「加害者」になるとは限らないという前提を置くことです。明らかな暴力行為、人格否定などの暴言は別ですが、パワハラの場合はグレーゾーンの判定をどのようにするかを見極めることが重要です。そのため、どのような頻度でどのような言動があったか、という点も認定に当たって重要な判断基準になります。被害者がパワハラだと訴えてきても、行為者の言動は適切な業務指導の範囲だと判断されることもよくあることです。したがって、行為者自身の名誉を守る必要を当初から念頭に入れてヒアリングを行いましょう。
また、実際に加害行為があった場合でも、行為者が無自覚に加害している場合は指摘を受けることで行為者も精神的なショックを受ける恐れがあります。そのため、まずは丁寧に当事者双方から「事実」を詳細に時系列に沿って聞き取ることが大切です。
なお、この時点で加害行為についてどの程度の懲罰が妥当かを判断することは早計です。まずは当事者間の認識のずれ、事実関係の把握に努めましょう。
第三者ヒアリング
当事者間で事実や認識に相違があった場合、調査委員会は第三者からヒアリングを行うことがあります。
場合によっては、第三者(目撃者や関係者)へのヒアリングが行われることもあります。これにより、より客観的な情報を収集し、事実関係を明確にすることが目的です。このステップは、複雑なケースや証拠が不明瞭な場合に特に重要です。
ヒアリングを行う人数は必要最低限の範囲で実施します。候補となるのは当事者の争いの現場を見ている人、同じ部署の人、同様にパワハラ被害を受けている人などで、人選を含めて慎重に行う必要があります。
また、ヒアリングの対象者には守秘義務を求めます。パワハラの事実認定は慎重に行う必要がありますが、第三者ヒアリングの対象者やその実施プロセスの過程で情報が漏れてしまう可能性があります。当事者の名誉を守る意味でも大切なことなので、ヒアリングの際は十分に配慮して行いましょう。
場合によっては、第三者(目撃者や関係者)へのヒアリングが行われることもあります。これにより、より客観的な情報を収集し、事実関係を明確にすることが目的です。このステップは、複雑なケースや証拠が不明瞭な場合に特に重要です。
ヒアリングを行う人数は必要最低限の範囲で実施します。候補となるのは当事者の争いの現場を見ている人、同じ部署の人、同様にパワハラ被害を受けている人などで、人選を含めて慎重に行う必要があります。
また、ヒアリングの対象者には守秘義務を求めます。パワハラの事実認定は慎重に行う必要がありますが、第三者ヒアリングの対象者やその実施プロセスの過程で情報が漏れてしまう可能性があります。当事者の名誉を守る意味でも大切なことなので、ヒアリングの際は十分に配慮して行いましょう。
処遇の検討と処遇案の作成
集められた情報を基に、調査委員会は行為者への処遇を決定します。この処遇には、加害者への懲戒処分や被害者への支援策が含まれます。処遇の決定は、公平かつ迅速に行われる必要があります。
基本的には被害者が希望している処分が妥当かどうかをまず検討します。また、その際に行為者の行った行為について就業規則に記載のある懲戒事由になりうるかどうか、行為そのものの内容や期間、頻度、当事者の反省の有無、過去の懲戒歴などを勘案して決定していきます。あまりに厳しすぎると対象者からの訴訟リスクに繋がることになりかねませんので、類似の事例が過去にあったかどうかや専門家の意見も参考にして決定します。
基本的には被害者が希望している処分が妥当かどうかをまず検討します。また、その際に行為者の行った行為について就業規則に記載のある懲戒事由になりうるかどうか、行為そのものの内容や期間、頻度、当事者の反省の有無、過去の懲戒歴などを勘案して決定していきます。あまりに厳しすぎると対象者からの訴訟リスクに繋がることになりかねませんので、類似の事例が過去にあったかどうかや専門家の意見も参考にして決定します。
行為者に対し弁明の機会を設け、最終的な処分を決定
調査委員会で処遇案を作成後、行為者本人に対しその内容を通知するとともに、その内容について意見を聴く場を設けます。これを弁明の機会といいます。弁明の機会の付与は法律上義務とされているものではありませんが、懲戒処分を行う場合はその妥当性を慎重に判断する必要があります。そのプロセスとして、弁明の機会を取り入れることは会社にとって事実上必要なものといえます。
懲戒委員会の設置を就業規則に記載している企業は、懲戒委員会に行為者を呼んで弁明の機会を与える方法もあります。
弁明の機会を経て、最終的に当事者に対する処分を決定します。この処分には行為者を処分しないことも含まれ、また配置転換などの人事的措置にとどめる場合や、懲戒処分の実施を伴うなど事態の深刻さやパワハラの様態によってグラデーションを伴います。その妥当性を担保するためにも、最終的には複数人で合議し、また当事者の弁明も加味して処分を確定します。
懲戒委員会の設置を就業規則に記載している企業は、懲戒委員会に行為者を呼んで弁明の機会を与える方法もあります。
弁明の機会を経て、最終的に当事者に対する処分を決定します。この処分には行為者を処分しないことも含まれ、また配置転換などの人事的措置にとどめる場合や、懲戒処分の実施を伴うなど事態の深刻さやパワハラの様態によってグラデーションを伴います。その妥当性を担保するためにも、最終的には複数人で合議し、また当事者の弁明も加味して処分を確定します。
再発防止策の立案と実行
最後に、同様のパワハラが再発しないようにするための防止策を立案します。この防止策には「何がパワハラにあたるのか」「どこからがパワハラか」を全社員で目線合わせをすることが有効です。管理職者のみ、一般職のみと階層で区切ってしまうとパワハラに対する認識のずれが起こるため、縦断的に行っていくことが大切です。当事務所の研修は階層別ではなく、事例検討を通して一般職・管理職者が共に判断基準を考えるグループワークを提供しており、法律の観点と労使双方の立場から目線合わせをしていきます。
また、相談窓口の周知と「何をどこまでしてくれる部署か」を案内することも重要です。パワハラに限らず、企業の姿勢を真摯に表明していくことは社員の安心感へつながります。ハラスメントは許さないというトップメッセージの発信と共に、窓口を周知し有効に機能させていくよう常に運用体制を見直しましょう。
また、相談窓口の周知と「何をどこまでしてくれる部署か」を案内することも重要です。パワハラに限らず、企業の姿勢を真摯に表明していくことは社員の安心感へつながります。ハラスメントは許さないというトップメッセージの発信と共に、窓口を周知し有効に機能させていくよう常に運用体制を見直しましょう。