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LGBTQ+対応就業規則の作成とポイント<性的指向編>

現在、日本国内におけるLGBTQ+は少なく見積もっても100人に1名程度の割合で存在します。つまり、100名以上社員のいる企業ではLGBTQ+の当事者がいると想定されます。しかし、当事者の存在を想定しないまま職場のルールや社内規定を運用し続けると、トラブルの元になる可能性があります。本稿では社労士がLGBTQ+の当事者から相談を受けた事例を元に、LGBTQ+に対応した就業規則の作成・見直しのポイントを解説します。

1)職場におけるLGBTQ+の割合

日本におけるLGBTQ+の割合を調べた調査は公的団体・民間団体を含めて複数あり、その回答の幅は1.6%から8.9%までばらつきがあります。上記は最も小さな数値である1.6%の割合で計算したものであり、最も大きな数値である8.9%の割合で計算すると、11人に1人まで跳ねあがります。

このばらつきは、調査年代・調査対象者・調査方法の違いにも由来しますが、そのほかに回答者自身が「自分の性自認や性的指向を公開したくない」「自分の性自認や性的指向を公開することで不利益を得たくない」といった感情を感じ、正直に回答しにくいという理由もあります。LGBTQ+であることを知られるということだけで、生命の危機を感じることもあるからです。

しかし、100人に1名程度はLGBTQ+の当事者であることを考えれば、企業にとってそのための配慮をしないことは安全配慮義務に反しかねず、安心安全な就労環境を整える意味でも積極的に意識していくべきでしょう。

参考:LGBTの割合がバラつく理由【13人に1人? 100人に1人?】|JobRainbow

2)就業規則と職場のトラブルとの関係について

現在、多くの就業規則は「体の性別と心の性別が一致している異性愛者」によって作成されています。
このような人のことをLGBTQ+に対し「シスジェンダーの異性愛者」「ストレート」と呼びますが、このような人にとっては当然の規定内容であっても、LGBTQ+にとっては過ごしにくい、使えない制度が多く存在しています。

このような状況の就業規則を放置しておくことは、社員に対して下記のような企業の姿勢を発信することになります。
●会社がLGBTQ+を無視している、排斥している
●会社がLGBTQ+に対して無知であり、既存の価値観にとらわれている

また、自社にLGBTQ+の当事者がいる場合には、性的マイノリティに配慮した就業規則に改定することにより、自社の社員を守り、働きやすい環境づくりに資するという企業の姿勢を伝えることができます。そのような観点でも、就業規則をLGBTQ+へ対応させていくことは当然の配慮と言えるでしょう。

3)就業規則がLGBTQ+対応ではないことにより生じるトラブルとその対策

ここでは、就業規則がLGBTQ+対応になっていないことによる起こる職場のトラブルと、それを回避するための就業規則の作成・見直しのポイントを解説します。
なお、性的指向とは、恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向をいいます。性的指向等の用語についてはこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

LGBTQ+について企業が知っておくべき基礎知識を社労士が解説

①家族手当・扶養手当の対象に同性のパートナーが入っていない

最も多い相談のひとつが、家族手当・扶養手当の対象に同性のパートナーが入っていないというものです。
家族手当・扶養手当の範囲が「妻及び18歳未満の子」といった規定になっている場合、同性パートナーを扶養しているとしても本人が受けられる恩恵はありません。また、同性パートナーと法的な関係を持つために養子縁組という手段をとるカップルも存在しますが、子どもとしても年齢の要件があるために家族手当・扶養手当を受けることができません。
これは、同性のパートナーを持つ当事者にとっては明らかな不利益になります。

また、同性婚のパートナーに子どもがいて、その子どもを扶養している場合、先に挙げた例のような規定ではその子どもに対する家族手当・扶養手当が支給されるかは不透明です。規定として設ける以上、解釈によって支給される・されないといったことのないよう、明確な定義が求められます。

この問題への対策としては、家族手当・扶養手当の支給対象者の範囲を広げることです。
例えば「配偶者(事実婚及び同性婚の相手も含む)」としたり、「子(実子・養子及び同居の配偶者が監護する子を含む)」などの記載が考えられます。

家族手当・扶養手当は企業の家族観がもっとも色濃く出るところです。
家族の多様性を受け入れる意向があるのであれば、是非改正を検討していただければと思います。

➁慶弔見舞金・慶弔休暇の範囲に同性のパートナーが入っていない

家族手当・扶養手当と同様に、慶弔見舞金の規定からも同性パートナーが対象とされていない規定が多く見受けられます。
親族が死亡した際に見舞金を支払う規定をもっている企業は多いですが、配偶者に同性パートナーを想定していない事例が散見されます。慶弔休暇についても同様です。

この場合も①と同様、慶弔の対象者を見直すことが対策となります。また、本人が意図せぬカミングアウトを避けるため、「同居の事実のある者」などを対象者として加えることも検討していただければと考えます。

同性のパートナーと同棲していても、住民票上同一世帯になっている場合と、住民票上では別世帯になっている場合があります。これは住民票を提出する各場面における不都合を避けたり、意図せぬカミングアウトをしなくて済むようにLGBTQ+の当事者自身がそれぞれの事情に応じて選択している結果です。したがって、「住民票上同一世帯にある者」という定義にしてしまうと同性パートナーやその子どもを慶弔見舞金や慶弔休暇の対象にできない場合もあるため、注意してください。

③配置転換にあたり、同性のパートナーがいることが考慮されにくい

育児・介護休業法では、企業に対し、労働者の配置変更の際に就業場所の変更を伴うものについては労働者の子の養育又は家族の状況に配慮しなければならないとしています(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第26条)。

この「子の養育」や「家族の状況」には同性パートナーとともに監護する子や同性パートナーの状況も含められると解されますが、戸籍上独身であることをもってこの配慮が不要であると錯覚している企業も見受けられます。

LGBTQ+の当事者にとって、こうした配置転換の内示は自分の性的指向について企業に伝える契機の一つです。信頼関係が構築できていれば告白して適切な配慮を受けることもできますが、信頼関係がない場合は離職のきっかけにもなり得ます。企業としてはどのような社員の事情も受け入れるという姿勢を示すためにも、配置転換に当たっては個別の事情は考慮する旨を伝えるようにしましょう。

もっとも、配置転換について就業規則に定めを置く、転勤の目的や背景について十分な説明を尽くすなどの配慮をすれば、LGBTQ+の当事者についても配置転換を行うことは可能です。これは通常の育児・介護に関する考え方と同じです。

④SOGIハラスメントを受けやすい

SOGIハラスメントとは、性自認や性的指向を含むセクシュアリティに対する嫌がらせを指します。
SOGIとは、ソジ・ソギと読み、「Sexual orientation and Gender Identity」の頭文字を取ったものです。

SOGIハラスメントの代表例は下記のようなものです。

・「彼氏いるの/彼女いるの」といった、異性愛を前提とした質問をする
・会社のイベントにおいて男性に女装を求め、それを面白がってはやし立てる
・男性にはパンツスタイルを、女性にはスカートスタイルを強要する
・独身者に対し、執拗に結婚を勧めたり異性との交際を勧める
・結婚していないことや交際相手がいないことを過失のように言う
・本人が望んでいないのに、本人の性自認や性的指向を第三者に公開したり、話題にする(アウティング)

このうち、特にアウティングは非常に大きな問題で、最悪の場合はLGBTQ+の当事者の命すら奪いかねません。セクシュアリティは非常に繊細な個人情報の一つです。噂のレベルだとしても、本人が望まない形で本人の性自認や性的指向を話題にすることは厳に慎むべきです。

こうした状態に対する対策としては、企業がSOGIハラスメントを断固として許さないという姿勢を示すことが何より重要です。就業規則にSOGIハラスメントに関する規定を盛り込んだり、SOGIハラスメントの加害者を懲戒処分の対象とするなどの対応をするとともに、企業経営者がSOGIに対する理解をもち、LGBTQ+に留まらない社員一人一人のセクシュアリティを尊重する姿勢を発信することが重要です。

なぜなら、SOGIの考え方を大切にすることは、人権を尊重することと同義だからです。

4)性的指向を尊重して一人一人が働きやすい職場へ

性的指向に関する情報は個人情報の中でも保護を受けるべきものであり、また、必ずしも働くうえで公開が必要な情報でもありません。
しかし、社員一人ひとりが安心安全に働ける場を整えることは事業主の責務でもあります(労働契約法 第5条)。
そのため、こうした情報について企業も社員も学ぶことは重要です。
LGBTQ+について知り、マイノリティにとっても働きやすい環境を作ることは、どんな社員にとっても働きやすい環境を整えることに繋がるため、研修やロールプレイングを通じて自社の環境を整えていきましょう。

LGBTQ+・SOGI理解促進研修やLGBTQ+に関する就労支援・コンサルティングはこちらから

LGBTQに関する知識・労務管理に関する解説動画はこちらから

この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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