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アウティングとは何か?労災対策の観点でも取り組みが必要なアウティングについて社労士が解説

アウティングとは何か?労災対策の観点でも取り組みが必要なアウティングについて社労士が解説

アウティング(暴露行為)とは、本人の同意なく、本人の秘匿している情報を他者に開示する行為を指します。アウティングは労働者の心身の安全を脅かし、また企業にも大きな影響を与えるものです。この記事ではLGBTQ+アライの社労士がアウティングについての基礎知識と対策方法まで解説します。

1)アウティングとは?

アウティング(暴露行為)とは、本人の同意なく、本人の秘匿している情報を他者に開示する行為を指します。

2023年、上司からゲイであるという性的指向についてアウティングを受けた男性が、それが原因で精神疾患を発症したとして労災認定を受けました。
このように、アウティングは労働者の心身の安全を脅かし、また企業にも大きな影響を与えるものです。

アウティングの対象となる「秘匿している情報」には本人の戸籍上の名前や病歴、性的指向・性自認などが含まれます。これらの開示されることによって本人に不利益が生じることが予測される情報であり、その影響の甚大さから2022年に完全施行されたパワハラ防止法(正式名称 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)にも禁止規定が置かれました。

しかし、何をもってアウティングと言うのかと言う点についてはまだ十分な認知があるとは言えず、安易な気持ちでパワー・ハラスメントが行われてしまう現状があります。
そのため、企業はアウティングについて十分な知識を持つ必要があるのです。

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2)アウティングについて知ることの重要性

アウティングについて留意しておかなければならない最も重要な理由は、それが人命に影響する行為であるからです。

一橋大学アウティング事件

「アウティング」という言葉そのものの認知度が高まったのは一橋大学アウティング事件という痛ましい事件の報道が契機です。この事件は、アウティングがきっかけで自殺者が出た事件として大きく報道されました。
事件は、大学生のグループLINE内での暴露行為がきっかけで起こりました。学生Aのことを同級生Bがゲイだと本人の同意なく書き込んだことが発端で、Aは心身に不調をきたし、うつ状態になって心療内科に通院するほどの状況に陥ります。その治療と並行してAは大学側に対応について相談したものの、特に対策が講じられることはありませんでした。そのままAはBと必修授業で顔を合わせることになり、同日、大学内の建物から転落死したという事件です。学生が所属していたのが人権について学ぶ法学部であったことや、性的指向・性自認というプライバシー情報をどう取り扱うべきかといった大学側の対応の是非などが報道でも論点とされました。

LGBTQ+当事者へのアウティングの現状と自殺念慮

ゲイを含むセクシャルマイノリティ(以下、LGBTQ+当事者)たちの25%がアウティングを受けた経験を持つという調査があります。この調査では社会人であるLGBTQ+当事者の78.9%が「職場や学校で、性的少数者に対する差別的な発言を聞いた経験がある」と回答しました。厳にこうした差別的な状況があることが影響し、LGBTQ+当事者は同世代に対して自殺を考える割合が高いという調査もあります。社会人となる20代の若者たちのうち、この1年間で自殺を考えたLGBTQ+当事者の割合は4割に達します。

米国企業の大規模調査によれば、LGBTQ+当事者の割合は7.1%に達します。
この割合を国内で当てはめると、LGBTQ+当事者の割合はおおよそ「山田」姓と同程度存在することになります。

要配慮個人情報とアウティング

アウティングの対象としてはLGBTQ+当事者に関する情報ばかりがクローズアップされがちですが、それ以外にも病歴や、通称名と違う場合の戸籍上の本名などもアウティングの対象になり得ます。

2017年に改正個人情報保護法が施行され、本人の人種、信条、社会的身分、病歴(身体・知的・精神障害、健康診断/遺伝子検査結果、保健指導、診療・調剤情報など)、前科・前歴、犯罪被害情報のほか、本人に不当・偏見が生じないよう、特に配慮が必要な情報が要配慮個人情報として規定されました。

こうした情報は本人にとって非常に重要かつ開示されることで不当な差別を受ける可能性があるものです。こうした情報を本人の同意なく漏らすこともアウティングになります。

3)アウティングの具体例

一橋大学アウティング事件では、グループLINEに投稿された「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」という言葉がアウティングとなりました。
アウティングには他にも、下記のようなパターンがあります。
いずれも、「本人が意図しない形で」「本人が望まない状況で」「本人が望まない相手に」情報が開示されるという行為がアウティングとなっている例です。

・本人が信頼している相手にだけ伝えた情報を開示する行為
 例)Aが同性のBに告白したことを、告白した相手がAだと分かるようにBが第三者に相談すること

・本人が限られたコミュニティ内のメンバーにだけ伝えた情報を、それ以外のコミュニケィ
メンバーに開示する、またはその時点で居なかったメンバーに開示する行為
 例)Aが同じ部署のメンバーにだけ伝えている病歴を、あらたにその部署に移動した人にAの同意なく伝えること。社外の人にAの情報を伝えることも同様。

・一見、本人がその情報を秘匿していないようにみえる場合で、その情報を無断で第三者に開示する行為
 例)「私バイセクシュアルだから」と話しているAの情報を、Aの同意なく第三者に話すこと。Aとしてはその場にいるメンバーにだけ話しているつもりだった場合、アウティングに該当する。

4)アウティングが起こる原因

アウティングが起こるのはいくつかの原因があります。ここではアウティングの原因として考えらえる要因を3つ説明します。

心理的リアクタンス

心理的リアクタンスとは、「他の人からある特定の行動をとるように強制されたとき」や、「自分の行動の自由が制限されたと感じるとき」に発動する心の動きです。
私たちはこのような状況になると、この強制や制限された状態に反発し、回復したいと感じるため、その強制や制限の原因となるものを排除したいと考えます。
したがって、「あなただけに話すけれど……絶対秘密ね」と打ち明けられた場合は、この「話せない」という状態に反発し、誰かに話したくなってしまうのです。

反芻(はんすう)思考

秘密の情報を打ち明けられた相手は、その情報が自分にとって意外なものであれば「なぜその情報を自分に伝えたのか」「この情報をどう扱えばいいのか」「どうして自分はそれについて配慮しなければならないのか」など何度もネガティブな方向に反芻して考えてしまうことが考えられます。
こうしたネガティブな方向で何度も情報について考えることは反芻思考やぐるぐる思考と呼ばれ、うつ病や不安障害などの原因になると言われています。
それを回避するため、原因となっている秘密の情報を第三者に打ち明けてしまうという行動を採ることがあります。

秘密の情報の開示による自己の価値向上

秘密の情報はそれだけで価値があります。代表的なものは営業機密や人事情報でしょう。
こうした情報を持っていることを示すことや、特定の誰かにだけ開示することは開示した本人の価値を一時的に挙げることに繋がります。それは親しみや好意の表れとしても機能するため、人は秘密を話したくなるのです。

5)アウティングを防ぐために企業が取り組むべきこと

上記のように、アウティングは対策しなければ容易に起こり得るものです。だからこそ、企業においては正しい知識をもち、アウティングの防止に勤めなければなりません。ここでは、そのためには、下記について十分な認識を得ることが必要です。

・アウティングがパワーハラスメントだという認識を持つ
・アウティングが人命にかかわることであると知る

アウティングは、パワハラ防止指針において、「個の侵害」型のハラスメントの例として明示されています。

「個の侵害」型のハラスメントとは、労働者のプライバシーや私的な情報に過度に立ち入ることを指します。この例として、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」という項目があり、これが企業においてアウティング対策に取り組む直接的な根拠になります。

これは労災防止という観点だけではなく、人権に関する取組みとして行わなければなりません。
企業には自社の労働者に対し、安全配慮義務があります。この義務をまっとうするためにも、アウティングに関する知識は不可欠です。



出典:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

6)アウティングに関する研修を受けて自社の労働者を守ろう

アウティングは知れば簡単に防げることのように思われますが、実際には具体例で見たように悪意なく行われる場合もあります。
自分の何気ない一言が原因で相手が自殺してしまう――そのような状況は加害者の労働者の人生にも大きな影響を与えます。
自社の労働者を守る意味でも、適切な研修を受けて意識のアップデートを図りましょう。

LGBTQ+に関する基礎知識はこちらから

LGBTQ+対応就業規則の作成とポイントについてはこちらから

アウティングやハラスメントに関する研修はこちらから

この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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