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副業を社内で解禁する前に考えておくべき5つのポイント

副業を社内で解禁する前に考えておくべき5つのポイント

副業・兼業の解禁の動きは政府の後押しもあり企業にとっても無視できない流れになっています。この記事ではこれから社内で副業・兼業を解禁するかどうかを考えている経営者・人事労務担当者が考えておくべき内容と対応について副業推進を進める社会保険労務士が解説します。

1)副業とは?

副業とは、本業以外で収入を得る仕事をするなど、多くの場合主たる業としての仕事を持ちながら他の仕事を行うことを指します。サイドビジネス、ダブルワークという呼び方もされます。法律で明確に定義されている言葉ではなく、人によって使い方に幅のある言葉だと言えます。

副業と似たものに、兼業という働き方があります。こちらも明確な定義はなく、多くの場合フリーランスや個人事業主がいくつかの仕事を並行して行うような働き方を指します。

また、プロボノといって無報酬で他の仕事を行う場合も含むこともあります。
これらの働き方を総合して副業と呼ぶことが多いようです。

本記事では、特に断りのない場合、「副業=会社に正社員として所属しながら他の仕事を行うこと」と定義しています。

2)副業解禁が進む背景

経団連の2022年の調査によると、70.5%の企業が自社の社員が社外で副業・兼業することについて「認めている」(53.1%)または「認める予定」(17.5%)と回答しています。
厚生労働省が「モデル就業規則」について副業を認める内容に改正した2018年は、「副業元年」と呼ばれ、大手企業が次々と副業解禁を推し進めました。

企業が副業解禁を行う背景として、次のような狙いがあります。
●社員自身が自社では得られない経験の獲得(越境学習の機会獲得)により成長する
●自社以外で社員自身の人脈を形成することができる
●副業によって自社にはないノウハウや考え方、知見を社員が持ち帰ることによりイノベーションの創出が期待できる
●自社で業務をスリム化したことによる人手余りの解消とそれに伴う給与額の減少を社員自らが補うことができる

また、副業解禁を望む社員も増えています。
民間企業が行った新卒者向けアンケート調査では、勤務する会社で認められていたら副業をしたいかどうかについて83.6%の20代が「副業したい」または「どちらかといえば副業したい」と回答。副業解禁については好意的にとらえている層が多いことが伺えます。

企業にとって副業は人材の教育や人件費の最適化という効果だけではなく、採用力強化や人材定着の観点でも検討すべき課題と言えるでしょう。

参照:「副業・兼業に関するアンケート調査結果」を公表|経団連

参照:20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(副業希望) 2023年11月版|学情

3)副業を推進する際に考えておくべき5つのポイント

こうした状況を踏まえ、副業を自社で解禁しようとする場合にはいくつか考えておくべき内容があります。ここではぜひ考えておきたい5つのポイントをご紹介します。

①副業はどの形態で認めるのか

副業には大きく分けて雇用型と請負型があります。
雇用型は副業先の企業と社員が雇用契約を結ぶ副業の形態で、請負型は副業先の企業と社員が業務委託契約(委任契約・準委任契約・請負契約)を結ぶ副業の形態です。具体的な例を挙げると、自社で正社員として働いている人が就業後にコンビニでアルバイトをするような働き方は雇用型に該当し、同じ人が土日に個人事業主として採用コンサルティングを行うような場合は請負型に該当します。

雇用型の場合は、労働時間によってはその社員の社会保険料を自社と副業先で按分する必要が出てきます。また、労働時間の把握が必要となります。法定の1日8時間、週40時間を超えている場合の割増賃金の支払いは後から契約した企業が負うことになりますが、この時間の把握自体は自社にも要求されていることには注意が必要です。

請負型の場合は、社員が個人事業主になりますので労働時間の把握や社会保険の問題は生じません。

したがって企業にとって導入のハードルが低いのは、請負型での副業解禁と言えるでしょう。

②副業を認めるにあたり、どのような制度を採用するか

労働時間を管理する観点だけではなく、企業の営業秘密の漏洩・守秘義務の観点からも、社員がどのような副業に就くかは企業にとって重要な問題です。
したがって、その把握のために許可制または届出制を敷きましょう。就業規則に定めておけば、無申告での副業を懲戒対象にすることも可能です。

許可制は、副業先の業務内容などを審査し、一定の基準を満たせば認める仕組みです。届出型は届出さえすれば無条件に副業を認める仕組みです。
いずれにしても、書式を用意し必要な事項を明示させるようにしましょう。当事務所では、副業先の企業名、業務内容、自身が副業としてかかわる業務の範囲など網羅的に情報を提出させる書式を作成しています。

当事務所では副業に関し営業機密保持や企業との競業禁止の観点からも、一定の基準を置いたうえで許可制にすることをお勧めしています。

➂自社の業務に支障がないか

副業による労働時間が自社の就業時間と重なっていないことはもとより、残業時間が一定程度見込まれる場合はその残業に対応できる時間があるかどうかも副業解禁を進める上では重要な観点になります。残業時間が恒常的に発生していることそれ自体の是非はおいても、就業規則に規定があり、適法に36協定が届出されている場合は、社員が副業を理由に残業を拒否することはできません。そのため、雇用型のみならず請負型での副業であっても、あらかじめ見込まれる労働時間について確認しておくべきです。

また、副業による労働時間が長時間化する場合、健康を損ねる恐れもあります。また、コロナ禍のような状況では副業を行うことで感染拡大につながる可能性も否定できません。状況に応じて副業での就労を制限できるよう、一定の条件下の下で副業を認める運用をお勧めします。

④競業避止義務・守秘義務違反についてどう扱うか

自社で業として展開している事業を社員が個人事業主として請け負ったり、副業を認めることで他社に自社の機密を漏洩されることは会社にとって大きな損失につながります。そのため、副業の許可を行うにあたっては競業避止義務と秘密保持義務についての契約書を取り交わし、違反した場合の懲戒処分なども定めておきましょう。

競業避止義務については無制限に認められるものではありませんが、会社にとって重大な利益逸失になる場合は制限することができます。また、秘密保持については意識的、無意識的に行われることもあり、どの範囲の情報について機密として扱うかといった定義づけや、情報へアクセスできる範囲を見直すこと、知的財産の保護についても合わせて見直していくといいでしょう。

副業に使用する情報端末は自社で使用するものとは区別させる、業務で使用するメールアドレスは会社のものとは区別するなど物理的な制約をかけることも大切です。

⑤副業先企業と連携体制を得られるか

自社でフルタイムで就労している社員の場合、副業が雇用型の場合は特に労働時間の把握が重要になります。また、労災事故防止や通勤手当の計算など、様々な場面で副業先の情報が必要になる可能性があります。

すでに自社で働いている人材が副業を行う場合、副業先は後から契約するため、自社での労働時間を把握していることが前提となります。その前提に立って時間外割増賃金の支払義務を副業先が負うからです。その点からも、副業先が自社での就労の事実を認識していること、また問題が生じたときに協力できる体制にあるかどうかを副業許可の判断基準として検討しておくべきでしょう。

5)副業に関するルールを明確化し、規則に定める必要性

副業は原則として労働者の自由な時間に行われるものである以上、企業が根拠なく制限することはできません。そのため、感情的に拒否したり、人によって容認の基準が異なるなどの運用を行うと、社員が自社に対して不信感を覚えることになります。したがって許可制にする場合は、許可の基準は明確化して規定に定めておきましょう。

当事務所では副業を解禁しようとする企業に対し、副業をしようとするものに対するガイドラインや副業許可の基準について経営者のお考えを伺いながらオーダーメイドで提案をさせていただきます。




この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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