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50代管理職を守るための育児介護休業法対応とケアハラ対策

50代管理職を守るための育児介護休業法対応とケアハラ対策

政府調査によると、介護をしている人の約半数は働きながら介護を担っています。年齢別でみると男女とも50代が最も介護を担っており、企業にとっては働き盛りのキーパーソンがある日突然介護を理由に離職するリスクを抱えているのです。この記事ではハラスメント防止支援に詳しい社労士が両立支援のためのヒント

■ 介護と仕事の両立は「個人の問題」ではなく経営課題

政府資料によると、家族の介護・看護を理由に離職する人は直近で約10万6千人にのぼり、介護をしながら就業する人も約364.6万人に達しています。
また、経済産業省は、2030年時点でビジネスケアラー(介護をしながら就労する人)は約318万人と推計されています。介護をしながら就労することによる労働者の心身の疲弊、それにともなう生産性の低下などによる経済的損失は約9兆円とも言われており、政府も喫緊の課題として様々な対策を行っています。

参照:「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表します|経済産業省


参照:令和6年育児・介護休業法改正について【介護関係を中心に】|厚生労働省


介護と仕事の両立を企業が支援しなければならない必要性

企業において介護と仕事の両立支援を行うのは、福祉的な要素もありますが、より重要な理由としては介護を担う人材の離職リスク・生産性低下リスクに備えるためです。

民間会社の調査によると、部長の平均年齢は 52.8歳、課長の平均年齢は 49.2歳となっています。また、管理職ではない現場スタッフであっても、この世代は勤続年数も長くなり、経験豊富で余人をもって代えがたい技能を身に着けている場合が多いでしょう。つまり、会社に最も貢献している世代といっても過言ではありません。

しかし、ビジネスケアラーを年齢階層別にみると、55歳―59歳層が最も多く、人口に締める割合は7.9%に達します。次いで多いのが50―54歳層で、50代全体で介護と仕事を両立している人は117万人を超えるという調査結果もあります。

つまり、この世代は企業にとって貴重な人材でありながら、同時に最も介護を行っている、または行う可能性の高い世代といえます。

しかし、介護は一般的に見通しが立てやすいライフイベントではありません。その始まりも徐々に介護を必要とする場合もあれば、ある日突然介護をしなければならない場合もあり、様々なケースがあり得ます。さらに、50代は仕事でも必要とされる人材であり、さしあたって介護をする必要がなければ情報収集をすることの優先順位も下がりがちです。そのため、介護をする必要に直面した際に、企業のフォローがなければ精神的・物理的疲労による生産性の低下やそれによる自信の喪失、離職という道を辿りやすくなります。こうした状況に陥らないよう、企業は社員が介護と仕事を両立できる状態を整えておかなければならないのです。

参照:管理職統計に紐づく管理職の実態調査(2024)|セレクションアンドバリエーション株式会社


参照:介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン|経済産業省


50代が介護と仕事を両立するために企業の支援を必要とする理由

50代の親世代は70〜80代になり、本格的に介護をスタートする世代です。政府調査によると65~74歳で要介護認定を受ける人の割合は2.9%であるのに対して、75歳以上では23.1%と介護の必要性が増していることがわかります。
前述の内閣府調査では介護を必要とする理由は「認知症」が最も多く、以下「脳血管疾患(脳卒中)「高齢による衰弱」「骨折・転倒」などの理由が続きます。ここからわかるのは介護の始期は「突然」であることも多いということです。また、脳卒中や骨折・転倒は必ずしも高年齢者にかぎらず介護可能性を生じさせますので、親ばかりではなく配偶者や兄弟姉妹の介護をする必要も考慮しておく必要があります。
そのような状況下において、50代の労働者は管理職など業務の責任が重く、代替がききにくい人材であることが多くの企業で見られます。さらにこの世代は、「弱音を吐きにくい」世代でもあります。介護について周囲に相談できないまま一人で抱え込んでしまい、結果として労務トラブルになる例も少なくありません。
そのため、企業からの「介護と仕事は両立できる」というメッセージは極めて重要です。メッセージを発信することで、まずは相談するという流れにつなげることができるからです。

参照: 令和4年版高齢社会白書(全体版)|内閣府




■介護と仕事の両立のため育児介護休業法が企業に求めるもの

こうした背景を踏まえ、国は令和7年(2025年)4月1日施行の育児・介護休業法改正において、介護離職防止に向けた企業の関与を一段と強化しました。
今回の改正で企業に求められる主なポイントは、次のとおりです。

① 介護離職防止のための「雇用環境整備」の義務化

企業は、介護と仕事の両立を支援するために、次のいずれかの措置を講じなければなりません。

 ・介護両立支援に関する研修の実施
 ・相談窓口の設置
 ・両立支援事例の収集・提供
 ・両立支援に関する方針の明確化と周知

② 40歳前後の従業員への情報提供

企業は、40歳に到達する従業員等に対し、介護休業制度や両立支援制度の概要を情報提供する必要があります。これは「まだ介護は関係ない」と思っている世代に対し、早期から制度の存在を知らせることで“いざ”という時の離職を防ぐという趣旨です。

③ 介護に直面した労働者への個別周知・意向確認

家族の介護が必要になったことを企業が把握した場合、事業主は対象労働者に対して、介護休業や両立支援制度の内容を個別に周知し、利用意向を確認する義務があります。
ここが、実務上最も重要であり、同時に最も慎重な対応を要するポイントです。

■ 介護と仕事の両立についての意向確認がハラスメントになるリスク

個別意向を行う際に注意すべきなのは、これらの確認が聞き方や文脈によってケアハラスメント(介護に関するハラスメント)に該当するリスクがあるということです。

たとえば、制度利用を希望したり、より詳しい情報を求めた労働者に対して下記のような言葉が添えられた場合、それは“確認”ではなく“実質的な牽制”“制度利用の抑制”と受け取られる可能性があります。

トラブルになる声掛けの例

 ・「介護の短時間勤務を利用するのは構いませんが、みんなに負担がかかりますよね」
 ・「施設も利用されるんですよね。本当に休む必要がありますか?」
 ・「今から忙しい時期になるんですよね。それで、いつまでお休みが必要ですか?」
 ・「短時間勤務を希望されてますが、管理職がそんなことでは部下に示しがつかないのではないですか?」

介護に関するハラスメント(ケア・ハラスメント)

介護に関するハラスメントは、法令上は職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントといい、職場において行われる、介護休業等の利用に関する上司・同僚からの言動により、介護休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されることをいいます。

ハラスメントは「社会通念」と「平均的な労働者の感じ方」によって判断され、加害の意図がなくても、結果として相手の就業環境が害されれば、企業も使用者責任を問われることになります。

また、育児・介護休業法は、不利益取扱いの禁止を明確に定めています。「制度はあるが、「使いにくい空気」が存在すれば、実質的には違法状態と評価される可能性も否定できません。

■ ケア・ハラスメントを防ぐ鍵は「使える制度」への信頼

ケア・ハラスメントは、パワハラやセクハラに比べて“見えにくい”特徴があります。

 ・加害者に加害意識がない、悪意がない
 ・善意で本人の意図、考えを無視したマネジメントを行ってしまう
 ・労働者本人も家庭の事情のことだからと企業に相談する前にあきらめてしまう

こうした言動が、結果として労働者を追い詰めます。特に50代の労働者は企業で過ごす時間も長く、かつ自分がその場において重要な役割を持つことも多いため、「介護は個人の問題なのだから、組織や周囲に迷惑をかけてはならない」「子育て世代のほうが大変なのだから、むしろ自分たちはもっと貢献しなければならない」などの意識を持ちがちです。さらには「この年齢でこの会社を離れることになれば転職先が見つからないかもしれない。就労し続けるためにも、リスクになりそうな事情については隠しておいたほうがいい」という考えを持つ人も少なくありません。
したがって、ケア・ハラスメントを防ぐために必要なのは、単に「制度を整えること」ではありません。
制度が“ある”だけでは、従業員は安心しません。
大切なのは、その制度が本当に使えると信じられているかどうかです。

■ 介護と仕事の両立制度は「運用」してこそ意味を持つ

法改正に伴い、多くの企業で就業規則は整備され、介護休業制度が条文化されています。しかし、それだけでは十分ではありません。
従業員が本当に知りたいのは、

 ・使ったら評価は下がらないか
 ・管理職の昇進に影響しないか
 ・同僚から不満が出ないか
 ・「あの人は大変だから外そう」と仕事を外されないか

という、“現実の運用”と、制度の条文ではなく、その制度を使った人がどう扱われているかという現実です。
そのため、企業姿勢として「制度は使ってよい」ではなく、「制度を使うことは正当な権利であり、組織として支える」という価値観を明確に示すことが重要なのです。

■ 介護と仕事の両立をするために求められる労務管理

制度を実際に機能させるには、業務設計の見直しに加え、

 ・介護休業取得者の評価方法の明確化
 ・残業制限者の業務配分ルール
 ・不利益取扱い禁止の具体的な基準
 ・相談内容の守秘義務の徹底

といった細かな運用設計が必要です。労働者が制度利用を躊躇わずに使えるよう、制度を「作った」で終わらせるのではなく、使った結果をモニタリングし、改善し続ける仕組みが重要です。そのため、就業規則での明確な規定や運用フローの明文化をすることはもとより、実際に使った場合に起こる労使間でのトラブルや労働者間の行き違いについて適切な労務管理上の対応をすることが企業において実効性ある両立支援対策になります。

■ 村井社会保険労務士事務所の支援

村井社会保険労務士事務所では、
介護離職防止を目的とした制度設計支援
管理職向けハラスメント防止研修
意向確認の実務フロー設計
相談窓口体制の構築支援、窓口対応者のフォローアップ
を行っています。また、豊富なハラスメント対策の知見を活かし、制度だけでなく「運用」と「文化」に踏み込んだ支援を提供しています。

優秀な50代が安心して働き続けられる会社かどうかは、企業の未来を左右する分岐点です。
どうか、“辞めてから”ではなく、“辞める前”に当事務所へご相談ください。









この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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