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女性管理職登用を進めるための3つの課題と解決事例を社労士が解説

女性管理職登用に取り組む企業は増加しているものの、近年管理職登用自体を拒む労働者が増えていることもあり、一層の対策が求められています。また、労働力人口が減少している今、優秀な労働力の獲得の意味でも女性管理職の登用は重要な課題になっています。この記事では女性管理職登用を進めるうえでの課題を解説するとともに、解決事例をご紹介します。

1)女性管理職登用をめぐる指標―ジェンダー・ギャップ指数

世界経済フォーラム(WEF)が発表している「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)によると、2023年の日本のジェンダーギャップ指数は0.647と前年比ではほぼ横ばいであるものの、順位は9位落して125位という結果になりました。

ジェンダーギャップ指数とは、各国の男女の格差を「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で評価するものです。「0」が完全不平等、「1」が完全平等を示し、数値が小さいほどジェンダー・ギャップが大きくなります。
経済分野のスコアは0.561で、順位は123位です。特に、「管理的職業従事者の男女比」の項目はスコアが0.148、順位が133位と諸外国と比較しても低位に留まっています。

ジェンダー・ギャップがあることは男女どちらか一方の性が不当な状況に置かれていることを示唆します。たとえば、日本においては女性のほうが低所得であったり、物事の決定権が与えられていないという状況や、そのために虐待や搾取が起きるといった構造がうまれています。
このような状況を鑑み、政府はジェンダー・ギャップの解消を目指しています。

2)女性管理職登用を進めるべき理由と背景

こうした背景のもと、企業が女性管理職登用を進めている理由は大きく分けて2つの観点があります。

①「昇進したい」意欲を持つ人材の不足

日本は少子高齢化が進み、働ける人の数を示す労働力人口は2019年から微減傾向にあります。そのため、政府は様々な施策を行い、女性・障碍者・高齢者の就労支援を継続的に行ってきました。その結果、働いている人の数を示す就業者数はコロナ禍の影響が著しかった2020年を除いて増加傾向にあります。
そのため、働きたいという意向を持っている人はほとんどが働けている状況であるという推定が成り立ちます。

ですが、管理職比率では最も女性管理職の比率が高い係長級であっても男性79.3%に対して女性20.7%とかなり差が開いている状況です。

また、民間企業の調査によると、労働者の8割が管理職になりたくないと考えています。管理職になりたくないと考える人が多い以上、男女を問わず、管理職として適正があると会社が見込んだ人材を登用するための仕組みが必要になります。

一般に男性よりも女性のほうが管理職登用の仕組みが用意されていない場合が多いため、こうした状況を鑑みて女性活躍推進の名のもとに女性管理職登用が進められています。

➁多様性の担保による企業価値向上

2020年に政府が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」によると、性別・出身国・年齢など6項目で測定される多様性スコアが平均以上の企業は、平均未満の企業に比べ売上高に占める新商品の割合が19%高いという結果が記載されています。

日本企業の取締役会においてマジョリティを構成するのは日本国籍の男性、かつミドルシニア~シニア層です。したがって、多様性の第一歩として女性の比率を増やす方向性が注目されているのです。
もちろん、同様の効果を狙って若年層の管理職登用も進んでいます。
この両方のアプロ―チを組み合わせ、女性の若手を管理職登用することや、管理職登用する前提で教育機会を与えるなどの取り組みを実施している企業もあります。

こうした取り組みを行うことで、多角的な視点で事業運営が実現します。そのような企業では細やかなニーズ把握など新商品を生み出すためのイノベーティブな発想が生まれやすくなるほか、複眼的に事物を判断できるためリスクマネジメント上の効果も期待できます。

3)女性管理職登用を進めるうえでの課題

しかし、女性管理職登用を進めるうえで課題となることも多く存在します。ここでは3つの課題を取り上げます。

①ガラスの天井・壊れたはしご

「ガラスの天井」とは、組織内で昇進に値する人材が、性別や人種などを理由に不当に低い地位に据え置かれることを意味する言葉です。ガラスのように目には見えないが、確実に昇進を阻む存在があるということを意味する言葉で、特に女性の能力開発を妨げたり、上級管理職への昇進昇格やキャリア形成を阻害したりする事象をさして使われます。

「ガラスの天井」と似たものとして、「壊れたはしご」という言葉があります。
「ガラスの天井」が最初のスタート時点は同じであるが、女性にだけ一定の上限が設定されてしまっている状況を指すのに対し、「壊れたはしご」は最初のスタート時点から男女で進むコースが異なるという状況を指すものです。

これらはいずれも意欲ある女性社員にブレーキを掛け、また成長意欲を減退させます。女性の管理職登用を進める上では大きな課題ですので、企業においては自社にこのような風土がないか、あるとすればどのように取り除いていくのかを速やかに検討すべきでしょう。

➁インポスター(詐欺師)症候群

インポスターとは詐欺師、ペテン師を意味する英語(impostor)です。「インポスター症候群」とは、自らに対する周囲のプラスの評価に対して、あたかも詐欺を働いてその結果を得たかのように自分のことを過小評価してしまう傾向のことを言います。症候群と呼ばれていますが、治療が必要な疾患や精神障害ではなく、不安や緊張状態を示す言葉です。
日本においてはインポスター症候群は女性が陥りやすい症状として知られています。

インポスター症候群の症状として、「チャンスを与えられても辞退する」「失敗を過剰に恐れる」といったものが見られます。周囲からは十分に実力がある、能力もあると評価されてポストを提示されても、「私には務まらない」「私にはとてもムリ」だと自らそのチャンス・評価から逃れてしまうというものです。

女性管理職登用においては、自社の女性社員がインポスター症候群に陥らないよう、自己効力感を高めていくことが必要となります。

③マミートラック

マミートラックとは、女性が産休・育休から復職した際に、自分の意思によらず職務内容や勤務時間が変わったり、その結果として社内における出世コースから外れていったりする事象をさす言葉です。

現在、求人などで使われる「女性が働きやすい会社」という言葉にはふたつの意味があります。一方は、女性が出産や育児、介護などのライフイベントに関わらずキャリアを積んでいける会社を指しています。もう一方は、女性が出産や育児、介護などのライフイベントに積極的に関われるよう、キャリアを追求しない仕事が豊富にある会社を指しています。
女性にとってどちらが働きやすいと感じるかは個人の価値観になりますが、マミートラックに陥らずに働きたいと考える女性には前者の方が望ましいといえます。

4)女性管理職登用への取り組み事例

ここからは、当事務所が支援してきた女性管理職登用への取り組み事例を紹介します。

①「ガラスの天井」「壊れたはしご」の撤廃のためのジェンダーバイアス研修の実施

女性管理職の登用をすすめたいと思いながら、何をどのように着手してよいか分からなかったというB社からのご相談では、まず女性社員のうち、経営者が管理職への登用を考えているという女性社員5名へのヒアリングから着手しました。

このヒアリングを通じ、「一人だけ昇格するのが怖い」「責任が過度に重くなるのではないかと不安がある」といった声が上がったため、同時昇格は2名としました。また、責任の分散という意味で従来の課長1名が担当していた業務を課長補佐2名で担当することし、課長にはこの2名のマネジメントとメンタリングを主に担当してもらう体制を作りました。
こうして、まずは課長補佐から、B社の初めての管理職登用がスタートしました。

合わせて、従来より課長級以上の管理職と役員に対し、自身のジェンダー・バイアスを自覚して貰うための研修を行いました。
ジェンダー・バイアスは性差が能力差に直結すると考えたり、性別による役割固定を当然と考えてしまう認知の歪みのことを指します。「女性だから」という思い込みを捨て、フラットに女性社員の行動を評価することで、管理職を目指す女性を評価できる土壌を作りました。

女性自身にもジェンダー・バイアスがある場合も多いため、B社では毎年1回、定期的にジェンダーもふくめたアンコンシャス・バイアスの研修を実施し、社員一人一人が能力を発揮できるよう環境整備に努めています。

➁インポスター症候群を防ぐための人事評価制度・メンタリング制度の導入

インポスター症候群は自己の行動・業績を正しく認知できていないことで生じる現象です。

そのため、P社ではまず全社員に適用する人事評価制度を見直すところから着手しました。
従来の人事評価制度は上司の主観的な評価が入りやすいものであったため、スキルマトリクスを用いた評価制度と、その評価制度に連動した賃金テーブルの導入を行ったのです。これは非常に大きな変更でしたが、社員アンケートでは8割の社員から好意的に受け取られており、P社は定期的にスキルの見直しを行うことを前提として運用を開始しています。

また、特に管理職候補である若手社員の男女については、商工会議所に入会させるなどして越境学習の制度を作り、当事務所の職員を外部メンターとして起用しました。自社だけではない多様な視点を学ばせるともに、外部メンターとの定期的な壁打ちを実現し、自分に対するメタ認知力を上げて自己効力感の醸成に努めています。また、外部メンターからのフィードバックを会社に戻すことにより、管理職候補者を含むすべての社員のニーズを汲み、より働きやすい組織風土づくりに繋げています。

5)女性管理職登用は取り組み方が重要

女性管理職は当たり前の存在になりつつありますが、企業によってその比率はまだまだ差が大きく、どこから着手すればいいのか、といった課題感も企業ごとに異なります。女性管理職を社内で養成するのか、それとも外部から呼んできて定着させたいのか、プロパー社員に役員を務めてほしいのか、といった企業の考え方により、取り組み方も異なります。
まずは自社にとって女性管理職をどのように考えていくのか、またそのためにどのような手を打つべきかを考え、一つずつ実行していきましょう。


女性管理職登用に関するご相談やジェンダー・バイアス研修についてはこちらから

この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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