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中小企業で男性育休を促進するためのポイントと構成案

中小企業で男性育休を促進するためのポイントと構成案

男性社員の育休制度を構築しても、様々な要因で取得率が伸び悩む企業は多いものです。この記事では、男性育休制度の基本情報や活用できる助成制度、誤解の払拭方法、デメリットへの対策、そして成功事例までを網羅し、中小企業で男性育休取得を促進するための実践的なポイントを整理します。

1)男性育休促進の必要性と現状課題

男性育休は少子化対策のカギとして具体的には「こども未来戦略方針」(令和5年6月13日閣議決定)において、民間企業については2025年度に50%、2030年度に85%という目標を掲げ、小規模事業所への支援強化など環境整備を進めています。その結果、2024年度の民間企業における男性育休取得率は初めて40%台(40.5%)に達しました。これは政府主導で行ってきた一連の取組の成果と言えるでしょう。

しかし、実際には規模の小さい企業ほど課題が多く、男性育休の浸透に苦戦しているのが現状です。特に、男性育休は女性の育休と異なり比較的短期間で取得する人が多いことから、業務引継ぎに関する課題や周囲に対する業務のしわ寄せが起こりやすく、また代替人員を確保するまでの期間の短さや、短い雇用期間で代替人員を確保することの困難さがボトルネックになっている企業も多く見受けられます。

しかし、男性育休の取得率は近年では求人採用の面でも注目の指標となっています‗世界最大手の求人検索エンジンの調査では、「男性育休」に言及する求人の動向として「男性育休」の言及割合が2021年6月から2.4倍に増加したことが明らかになりました。さらに、職種別では介護・看護職やドライバー職など人手不足感の強い職種で男性育休に言及する割合が高いことも分かっています(参照:男性育休に関する求人動向を調査|Indeed)。

こうした事実から、男性育休を促進することは、もはや政府主導の義務として取り組むべきものではなく、自社の人的リソースの充足のためには必達の課題として能動的に取り組むべきものになっています。

2)男性育休制度の基本:個別の制度周知の内容について

育休制度は複数の法律にまたがって運用されるもののため、男性育休を促進するためには押さえておくべき項目が広くあります。ここでは法令で周知しなければならない内容を中心に、男性育休制度の基本を解説します。

男性育休を促進しようとするとき、まずは当事者の不安に寄り添いつつ情報提供をしていく必要があります。2025年の法改正により、企業は本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、情報提供と制度利用に関する意向周知を行わなければならなくなりました。

周知・意向確認する内容は以下の4点です。

  • 1.育児休業・出生時育児休業に関する制度
  • 2.育児休業・出生時育児休業の申出先
  • 3.育児休業給付に関すること
  • 4.社会保険料の取扱い

そのため、企業側も男性育休制度について理解しておく必要があるのです。ここからは上記項目にそって解説していきます。

① 育児休業・出生時育児休業に関する制度

 
男性も法律上は女性と同様に、原則として子の出生後から1歳の前日まで育児休業を取得する権利があります(一定条件下では最長2歳まで延長可能)。2022年10月の法改正で新設された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度により、父親は子の出生直後の時期にも柔軟に休みを取りやすくなりました。

具体的には、出生後8週間以内に最大4週間(28日)までの育休を2回まで分割して取得できる仕組みで、通常の育休(子が1歳までの育休)とは別枠で利用できます。これにより、産後パパ育休(出生時育児休業)制度で2回、育児休業で2回それぞれ分割利用できる体制が整い、夫婦のライフスタイルや就労の形態に合わせて柔軟に取得できるようになりました。

(画像出典:マンガで学ぶ 育児休業制度 仕事と家庭が両立できる働きやすい環境づくり|厚生労働省)

後述する出生後休業支援給付金と育児休業給付金を受給することができれば、合計で休業前給与の80%が保証され、また社会保険料の免除を受けることができるので、実質的な手取り額としては休業時点の給与額の約8割~10割相当になるという仕組みで経済的にも安心して育休を取得できるようになっています。

② 育児休業・出生時育児休業の申出先

男性育休の申出先は企業によって異なりますが、多くの場合は直属の上司を経由して人事部・総務部などに申し出することになります。企業においては申し出先が分からないことで制度利用をためらわせることのないよう、規則等で明確に申請先を規定しておくとよいでしょう。

また申し出時に必要な情報があれば併せて申請時に聴取できる仕組みにしておくと効率的です。育児休業申出書により、申請人の氏名、所属部署、希望期間、子の予定日または出生日などを記載できるようにすると効果的です。また、直属の上司を経由せずとも直接申し込めるようにするルートを整備しておくと、より安心して制度利用ができるようになるのでお勧めです。

③ 育児休業給付に関すること

男性育休中の給料は無給に設定している企業が多く、ほとんどの場合は休業日数に応じて日割り減額されます。しかし、一定の条件を満たせば育児休業給付金が支給され、経済面のカバーが図られています。

育児休業給付金は、育休取得時期に合わせて出生後休業支援給付金と育児休業給付金の二つの制度に分けられます。

出生後休業支援給付金を受けるためには、下記の要件を満たす必要があります。

  1. 1.男性育休を取得する当事者(以下、パパ労働者)が、育休開始前に12月以上雇用保険の被保険者であること。
  2. 2.休業期間中に、パパ労働者に対して給与の8割以上の額が支払われていないこと。
  3. 3.子供が生まれてから8週間以内にパパ労働者が14日以上の育児休業をしていること。
  4. 4.パパ労働者の配偶者が、子供が生まれてから8週間以内に14日以上の休業をしていること(休業は産後休業、育児休業でも可。また、配偶者が専業主婦、フリーランスの場合など一部例外有)。

この要件を満たした場合、出生後休業支援給付金として休業開始時点での給与額の約13%が支給されます。

支給を受けられるかの簡易チェックツールがありますので、ぜひ利用してみて下さい。


厚生労働省 出生後休業支援給付の簡易診断(要件確認)ツール

https://www.mhlw.go.jp/stf/syussyougo_kanishindan_00001.html

育児休業給付金を受けるためには、下記の要件を満たす必要があります。

  1. 1.男性育休を取得する当事者(以下、パパ労働者)が、育休開始前に12月以上雇用保険の被保険者であること。
  2. 2.休業期間中に、パパ労働者に対して給与の8割以上の額が支払われていないこと。
  3. 3.育児休業期間中の就業日数が、各支給単位期間(原則1か月)ごとに10日以下であること(または就業時間が80時間以下)。
  4. 4.育児休業終了後に離職する予定がないこと。

この要件を満たした場合、育児休業給付金として休業開始時点での給与額の約67%が支給されます。なお、育休が181日を超えると支給率が50%になりますので注意しましょう。

このように一定の要件はあるものの、出生後休業支援給付金と育児休業給付金を受給することができれば、合計で休業前給与の80%が保証されることになります。手続きは企業を経由して行い、原則として2か月単位で申請することになります。

④社会保険料の取扱い

男性育休を取得すると、健康保険・厚生年金の社会保険料免除を受けることができ、企業・パパ労働者本人も育休期間中の保険料負担がゼロになるメリットがあります。また、免除された期間も将来の老齢年金計算時は社会保険料を納付したものとして算定され、デメリットのない設計になっています。

社会保険料が免除される期間は下記のとおりです。

  1. 1.育児休業等を開始した日の属する月から育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間(例 1月5日に育休開始、1月31日まで休業した場合→育児休業等が終了する日の翌日は2月1日になるため、1月分の保険料が免除される)
  2. 2.開始日の属する月と終了日の翌日が属する月が同一の場合でも、育児休業等開始日が含まれる月に14日以上育児休業等を取得した場合(例 1月5日に育休開始、1月20日まで休業した場合→同一月に14日以上休業しているため、1月の保険料が免除される)

なお、賞与にかかる健康保険・厚生年金の社会保険料も当該賞与月の末日を含んだ連続した1カ月を超える育児休業等を取得した場合に限り免除となります。長期で休業できる場合は賞与月での取得を検討してもよいでしょう。

3)男性育休に関する誤解・懸念の払拭とデメリットへの対策

男性育休の制度を理解しても、現場では様々な誤解や不安が取得のハードルになっていることがあります。ここでは「男性育休のデメリットではないか?」と社員や企業側が感じがちなポイントと、その対策について整理します。

男性育休を取得すると収入源になるという不安を感じる

男性育休を取ることによって給与が減額されるため、家族を扶養する立場の男性社員は無給では生活できないのでは? という懸念を覚えて取得を控える傾向があります。しかし、前述のように、出生後休業支援給付金と育児休業給付金を受給することができれば、合計で休業前給与の80%が保証され、また社会保険料の免除を受けることができるので、実質的な手取り額としては休業時点の給与額の約8割~10割相当になるという仕組みで経済的にも安心して育休を取得できるようになっています。

男性育休を取得すると将来のキャリアに影響するのではないかと不安を感じる

男性育休を取ることによって人事評価が下がる、昇進のチャンスを逃すのではないか、と心配する声があります。また、上司や同僚から「必要ないのに休んでいるのではないか」と思われ、職場での評価が低下するのではという懸念から取得を控える傾向があります。しかし、育児・介護休業法では、育休取得を理由に不利益な扱いをすること(降格や減給、人事評価での減点など)は明確に禁止されています。育休取得を理由に昇進から外したり、給与査定を下げたりすればパタハラ(パタニティ・ハラスメント)に該当し、法的にも企業が責任を問われる行為です。

実際には、多くの企業で育休期間中は人事考課の評価対象外(ブランク期間は現状維持評価)とする運用が定着していますし、短期間の育休であれば評価にほとんど影響しないケースも多いです。また、育休取得によって得た育児経験や時間管理スキルを評価し、復職後に活かしている企業もあります。

企業側は「男性育休を取得しても評価が下がらない」ことを人事制度上明文化し、管理職にも周知徹底することが重要です。社員の不安を和らげるため、実際に育休を取得した社員のその後の活躍事例を紹介したり、安心して休めるメッセージを発信しましょう。

男性育休を取得すると職場の同僚に負荷をかけてしまうのではないかと不安を感じる

男性育休を取ることによって、その間の仕事のしわ寄せが周囲に及び、同僚に迷惑をかけてしまうのではないかという懸念は取得控えの理由として最たるものです。特に中小企業では代替要員の確保も難しく、業務が回らなくなるのではという心配があります。

確かに急な長期休業は職場に負担を与える可能性がありますが、事前の計画立案と業務の属人化解消で乗り切ることができます。育休取得が予想される社員には早めに業務引き継ぎ計画を立ててもらい、チーム内で業務を分担・共有する体制を整えましょう。必要に応じて派遣社員やアルバイトの活用、他部署からの応援など代替措置も検討できます。

国や県の助成金(両立支援等助成金等)で得た資金を一部、代替要員の人件費に充てることも可能です。むしろ育休取得をきっかけに「誰かが抜けても回る職場作り」を進めれば、平時から業務効率化やチームワーク向上につながります。また、「お互い様」の精神で社員同士がフォローし合える職場文化を醸成することも大切です。男性育休取得者自身も、復帰後は周囲への感謝を示しつつ業務に取り組むことで信頼関係を強めることができます。

男性育休について社内で偏見があり、申し出にくい状況がある

古い価値観から「男性は仕事、育児は女性」という固定観念が根強い職場では、男性社員が育休を取ること自体に否定的な声(「男のくせに育休なんて」など)が出ることもあります。いわゆるパタハラ(パタニティハラスメント)の温床にもなりかねません。

現代は共働きや男性の育児参加が当たり前の社会になりつつあります。実際、厚労省の調査では育休を取ろうとした男性の約26%が職場で嫌がらせや不利益扱い(パタハラ)を経験したと報告されており、企業にとっても看過できない問題です。育児・介護休業法の改正により企業はパタハラ防止措置を講じる義務を負っており、社員への研修や周知を行って固定観念の払拭に努める必要があります。

そのため、管理職自身が育休取得の模範を示したり、育児参加の大切さを啓蒙する社内セミナーを開催するのも効果的です。男性が育休を取ることは決して「甘え」や権利を振りかざすものではなく、家族を支え働き続けるための大切な投資であることを社内に浸透させましょう。企業イメージや社員エンゲージメント向上にもつながる建設的な取り組みであると訴えることが肝心です。

4)成功事例に学ぶ:男性育休促進の鍵とは

実際に男性育休の取得促進に成功している企業の事例から、ヒントを探ってみましょう。大企業の例ではありますが、育休取得率向上のための施策は中小企業でも参考になるポイントが多くあります。

  • 2018年9月より3歳未満の子どもを持つすべての男性社員を対象に、3歳に達する日の前日までに1ヵ月以上の育児休業取得を推進し、かつ、初めの1か月を有給扱いにしたこと(会社独自の有給育休制度)。育休開始から最初の1か月は会社が給与を保障することで、社員は安心して長めの育休を取得できました。またその期間は昇給・昇格、人事評価や賞与、退職金にも影響しないルールとし、育休によるキャリアへの配慮を明確に打ち出しました。
  • 最大4回まで分割取得OKとし柔軟な運用にしたこと。法律上許される範囲で分割取得を推奨し、連続1か月が難しくても複数回に分けて取得できるようにしました。
  • トップダウンとボトムアップの両面から推進。経営トップのコミットメントのもと、社内フォーラムで男性育休の意義を発信し、さらに育休取得者の声をまとめたガイドブックや「家族ミーティングシート」の提供など現場社員へのサポートも充実させました。取得経験者の生の声共有は、後に続く社員の心理的ハードルを下げるのに有効でした。

この事例から学べるのは、経営陣の強い意志と具体的な制度整備・運用が男性育休促進の鍵だということです。中小企業においても、社長や部門長が「男性育休を取るのが当たり前の会社にしよう」と明言し、社内の空気を変えていくことが重要です。可能であれば有給育休や特別手当の支給など独自施策で社員を後押しすることも検討しましょう。難しい場合も、せめて「取得期間中の昇給・賞与・評価への影響無し」を明文化したり、取得しやすい職場風土づくり(たとえば「男性育休取得第1号」を称える等の取り組み)を行うと効果的です。

5)村井社会保険労務士事務所の男性育休サポート

男性育休の促進に向けて専門家の力を借りたいとお考えの企業様には、「村井社会保険労務士事務所」が提供する男性育休取得サポートの活用がおすすめです。当事務所は自治体や公共機関主催のセミナーで講師を務めるなど豊富な講演実績があります。 また、企業の顧問として育休取得の個別周知・意向聴取の運用設計にも精通しています。

従業員一人ひとりに制度を案内し意向を確認するプロセスは、進め方を誤るとパタニティハラスメント(育休取得の阻害)の原因となり得ますが、当事務所では、ハラスメントにつながらない丁寧な個別周知の方法を設計し、面談時の適切なコミュニケーション支援までノウハウを提供できます。 さらに、男性社員の育休取得を実現するための職場環境整備についてもトータルにサポート可能です。

あわせて、育休取得者が人事評価で不利益を被らないよう評価制度を調整することも重要です。当事務所は地方中小企業の組織設計や人事評価制度の構築を得意としており、こうした制度改定にも専門的な助言ができます。

専門家の力を活用することで、貴社でも男性社員が安心して育児休業を取得できる職場づくりを着実に進めることができるでしょう。

6)男性育休促進は企業の未来への投資

男性育休の取得促進は、単に国の方針に従うためだけでなく、企業自身にとっても多くのメリットがあります。男性社員が育児と仕事を両立できるようになると、女性社員の職場復帰支援にもなり、結果的に社内のダイバーシティ&インクルージョンが進みます。家庭の安定は社員の生産性向上につながり、離職防止や優秀な人材の定着にも寄与します。実際、新卒学生からは「将来育休を取りたい」という声も増えており、男性育休に前向きな企業は採用面でも魅力が高まるでしょう。社内コミュニケーションの活性化や働き方改革の契機にもなり得ます。何より、社員が「この会社で家庭を大事にしながら働き続けられる」と実感できる職場はエンゲージメント(愛社精神)が向上し、長期的な企業力強化につながるのです。

男性育休の取得率公開義務の拡大など、これからは企業姿勢が一層問われる時代です。本記事で紹介した制度のポイントや誤解への対策、そして成功事例をヒントに、中小企業ならではの工夫を凝らしながら男性育休を当たり前に取れる会社を目指してみてください。社員のワークライフバランスを支援する姿勢は必ずや組織の信頼と活力を高め、ひいては業績向上にもプラスに働くはずです。育児と仕事の両立を企業全体で応援し、誰もが安心して長く働ける職場づくりに取り組んでいきましょう。

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この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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