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男性育休の取得促進に向けて企業が取り組むべき5つのポイントを社労士が解説

男性育休の取得促進に向けて企業が取り組むべき5つのポイントを社労士が解説

2022年10月から出生時育児休業制度が新設され、2023年3月には岸田首相が記者会見で「産後パパ育休の給付率を実質手取り10割まで引き上げる」と表明したことで関心が高まっている男性の育児休業。本記事では男性育児休業の取得推進に向けて企業が取り組むことで得られる内容と、取得推進に向けた取組み、そしてその取組みを後押しする制度について解説します。

1)男性育休とは?

男性育休とは、男性が育児休業を取得する行為、及びその制度を指します。日本においては育児休業を取得することは育児・介護休業法で補償された権利であり、そこに男女の別はありません。しかし、日本においては出産した女性の約85.1%が育児休業を取得できている反面、男性は13.97%に留まっています。
そのため、政府は2022年10月から出生時育児休業制度を創設しました。
これは男性版産休、パパ産休などとも呼ばれる制度で、女性の産後休業に相当する期間に男性が休業することを促すための仕組みです。この休業は分割して取得することが可能で、労働者が希望する場合は休業中でも仕事をすることを認めるなど、男性労働者のキャリア途絶・所得減額も含めた心理的抵抗に配慮した仕組みになっています。
なお、これと合わせて従前の育児休業についても分割取得を認めるなど、より活用しやすい制度に変更がなされました。

2)なぜ今男性育休への取組みが必要なのか?

※表中縦軸の単位は「万人」

日本では現在、世界でも類を見ない速さで少子高齢化が進み、労働者数が減っています。15歳以上の働ける人の数を示す労働力人口を見ると、2019年をピークに労働力人口は6900万人台で横ばい推移になっています。
その反面、同調査では就業者数の人口は増加傾向にあります。つまり、働く意欲と体力がある人が働ける状況が整っていることがここから読み取れます。

したがって、企業においては下記3つの理由から男性育児休業に取り組む必要があると言えます。

出典:労働力調査 令和4年平均結果の概要|総務省

①採用難への対策のため

労働者の絶対数が減っているので、企業は採用難に陥りやすい状況になっています。有効求人倍率は2023年4月では1.32倍であり、1倍を上回る数字で推移しています。つまり、求職者一人につき1つ以上の仕事が常に用意されている状態になっているのです。
そのため、より求職者にとって魅力的な求人を打ち出していくことは企業にとって喫緊の課題と言えます。

現在、新卒世代となっているZ世代への意向調査では、8割弱が「男性も育休を取得すべき」と回答しました。また、同調査では79%が「男性も育児をするのは当たり前だと思う」と回答しています。そのため、人材獲得のためには男性が育児休業を取得できるよう環境を整えていく必要があるのです。

➁労働者の職場定着率向上のため

労働者が採用しにくい状況が続いているため、企業においては「すでに自社で働いている労働者をいかに辞めさせずに働いてもらうか」ということも重要になります。
つまり、職場定着率を高める取組みが必要になります。
職場定着率が高まると、個々の労働者の業務に対する習熟度が高まり生産性向上につながるほか、優秀な人材の流出を防ぐことにつながります。

民間会社の調査では、離職者のうち20代から40代のすべての世代で、3割以上の人が離職理由に「職場の人間関係が悪い」を挙げています。この人間関係のなかにはハラスメント行為も含まれることが自由記述のコメントから示唆されます。
ゆえに、男性育休を会社が推し進める姿勢を見せることによって、働きやすい職場環境づくりを行う必要があります。

③組織としての生産性の改善のため

男性の育児休業に取り組むことで、業務分掌の見直しや属人化の排除につながり、会社の生産性向上に役立てることができます。

男性の育児休業はある日突然起こるものではありません。そのために、休業の前に一定期間の準備期間を設けることが出来ます。これは介護休業や病気休業と根本的に異なるところです。この機会を活かすことで労働者の抵抗を薄めつつ属人化を抑えたり、マニュアル作成や引継ぎによって業務フローのブラックボックス化を防ぐことが出来ます。

現在、二人で一つの業務を担当するダブルアサインメントの手法が注目されていますが、属人化している業務を第三者と分け合うことは労働者にとっても心理的な負担を伴います。しかし、男性育児休業を契機として取り組むことで心理的な抵抗感を減らし、スムーズに業務の見直しを図ることができます。

3)男性育休の取得促進のための5つのステップ

①男性育休を会社として促進することをトップメッセージとして発信する

まず最初に取り組むべきことは、男性の育児休業を認め、促進することについて経営者が内外に発信することです。
社内においてはパタニティ・ハラスメントの防止に繋げるほか、取得対象となる労働者が休業を言い出しやすくする、話しやすくするための雰囲気を作ることにも役立ちます。
社外においても、トップメッセージとして発信することで投資家に対するPRになるほか、実際に労働者が休業する際にステークホルダーからの理解を得やすくなります。

➁男性育休についての啓発・啓蒙の機会を設ける

男性育休について、育児休業給付金や社会保険料の免除など労働者本人が利用できる制度について正しく理解できるような研修の場を設けたり、管理職者に向けたアンコンシャスバイアス研修を行うなどの機会を設けます。
育児休業は、労働者から事業主に対する「申出」によって行われ、事業主はこの「申出」を拒むことはできません。そうした基本的な内容も含め、定期的に情報を提供する機会を設けることで会社の本気度が伝わります。

➂男性育休の取得のための社内手続きのフローを見える化する

男性に限りませんが、育児休業を取得したい場合に「誰に(どの部署に)」「いつまでに」「どの書類を使って」申し出ればいいのかを明確化しておきます。
また、企業側が必要とする書類があればひな形を労働者が入手可能な形で掲示するなどしておきましょう。たとえば、両立支援等助成金では支給申請の際に育児休業取得を申し出る書類の添付などが必要になります。こちらは既定の書式である必要がありませんが、育児休業の取得日の変更があった場合にその変更を兼ねることができる書式であることが望ましいです。

④男性育休の業務を洗い出し、業務の整理・引継ぎを行う

既に取得可能性の高い労働者を抱えている場合は、その労働者の業務をすべて一度洗い出し、休業期間に応じて引き継ぐものと整理するものに分類します。整理するものの中で優先度が低い業務は企業側で巻き取って行うか、廃止するか、アウトソーシングするなどして手放させます。優先度が高いもののうち、緊急度も高いものについては後任者にしっかり引継ぎ、トラブルが起こらないよう情報共有を進めて対応策を講じましょう。

ルーティンで行っている業務についてはフロー図作成や簡易的なマニュアルを作成することもお勧めです。その過程で無駄を発見したり、重複している作業については上司と相談の上省いていきましょう。この工程が無駄のない作業ができる組織づくりに繋がり、生産性向上に寄与します。

➄男性育休期間中の情報提供体制を整える

キャリア途絶やパタニティ・ハラスメント防止のため、育児休業期間中の情報提供を定期的に行うことも重要です。
民間会社の調査では育児休業を取得しない理由として「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」と回答した男性は12.5%で、女性の5.6%と約二倍に上りました。こうした事実を踏まえ、そのような仕事を任せて休業しているという心理的負担を軽減させ、休業時間満了後もスムーズに業務に戻ることが可能な情報提供を行う体制を整えましょう。

情報提供の方法としてはメールやチャット等での議事録の共有のほか、短時間でのオンラインミーティングなども有効です。

4)男性育休に関する当事務所の支援事例

①男性育休取得促進研修の提供

男性育休を後押しするため、政府や自治体は企業に対しても様々な助成金や支援制度を用意しています。例えば両立支援等助成金や企業・労働者共に社会保険料が免除になる仕組みがそれに該当します。また、県や市町村レベルでも男性育休の取得を促進するために独自の給付を設けている場合もあります。

さらに、直接育休を取得する労働者も育児休業給付金や社会保険料の免除の仕組み、復職後の随時改定などの制度が設けられています。こうした制度について説明しなければならない管理職や人事担当者に向けて、また取得可能性のある男性労働者に向けての知識研修を実施しています。

当事務所の男性育休取得促進研修では、こうした知っておくべき制度や知識に関して講義形式でお伝えするだけでなく、ご希望に応じてアンコンシャスバイアスやパタニティ・ハラスメントに関する情報提供、グループワークを取り入れた参加型のプログラムを用意しております。

➁男性育休促進のための業務棚卸とフロー作成支援

男性育休を推進させるための取り組みの一つに、業務の属人化を防ぎ、無駄な業務を洗い出すという業務棚卸しの作業があります。しかし、十分な時間が取れなかったり、業務そのものを無意識レベルで行っているために、かえってタスクレベルに分解して洗い出すことが業務をしている本人には難しいという場合があります。

当事務所ではそうした取り組みのご支援として、部署単位・個人単位でのヒアリングを行い、業務をタスクレベルに分解・フロー化しています。第三者から聞き取りを受けることで、話している労働者本人も自分の仕事の優先順位が明確化されたり、無駄や重複に気が付きやすくなる効果もあります。

タスクごとに業務レベルの軽重をつけ、優先順位を洗い出すことで、本当に必要な業務が明確化され生産性も上がることも期待できます。さらに業務がフロー化され、簡易的なマニュアルとして機能することで引継ぎも容易になり、男性が育児休業を取得しやすくなる素地を組織に生み出すことが可能です。

③両立支援等助成金の受給を前提とした制度設計支援

両立等支援助成金は企業にとって受給メリットの大きな助成金ですが、その受給のためには必要なステップと要件があります。労働者自身から妊娠報告を受けたり、配偶者の妊娠が分かった労働者からの相談を受けた時点で準備をスタートすればもれなく受給できるよう準備をすることが可能です。

当事務所では助成金がつつがなく受給できるよう、就業規則の策定・変更、一般事業主行動計画の作成支援及び届出、育児休業取得申出書から育児休業復帰プランも含めた休業中の面談のフォローまで一貫して支援いたします。

※なお、その他の要件によって申請しても受給に該当しない場合もございます。その要件については受託前のご面談によるヒアリングでご説明させていただきます。受託前面談は1案件につき1回のみ無料でお受けいたします。

5)男性育休を取得できる組織で労働者も企業も成長しよう

育児休業を取ることは労働者にとって重要なライフイベントに参加することができる契機になるほか、育児を通じて社外の人脈を構築したり、自身の働き方やキャリアについて見直すよいきっかけになります。
企業もまたそうした男性育児休業の効果を認識し、積極的に推し進めていくことで労働者の企業へのロイヤリティの強化や定着促進に繋がります。
政府も育児休業給付金の増額検討や助成金での支援を行っている今だからこそ、社内に置ける男性育児休業取得率向上を目指して取り組んでいきましょう。


男性育児休業研修・アンコンシャスバイアス研修についてはこちらから

この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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