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組織における多様性の受容と課題 多様性を受容するために取り組むべき内容とステップ

組織における多様性の受容と課題 多様性を受容するために取り組むべき内容とステップ

組織において多様性の受容は、今やビジネスの成長と成功に不可欠な要素です。多様な背景や視点を持つ人々が共に働き、学び、生活することで、新たなアイデアや創造性が生まれます。しかし、多様性を受容することは難しく、生産性を阻害することにもなりかねません。本記事では、多様性の受容の効果と難しさ、それを乗り越えるための具体的な取り組みについて実際に企業支援実績のある社労士が解説します。

組織における多様性(ダイバーシティ)とは

組織において、現在多様性を受容することは必要不可欠な課題です。組織における多様性は様々な切り分け方がありますが、当事務所では下記の3つの要素として説明しています。

属性のダイバーシティ

属性のダイバーシティとは、個々人の持つ生物学的、社会的、文化的な特性の多様性を指します。これには、性別や年齢、国籍、宗教、障害の有無などが含まれます。

属性のダイバーシティの例
・性別
・年齢
・国籍
・信奉する宗教
・障害の有無
・パートナーの有無
・世代

考え方のダイバーシティ

考え方のダイバーシティは、人々が持つ価値観や信念、思考の多様性を意味します。これには、無意識の偏見、公平性の認識、仕事に対する姿勢や組織に対する関わり方などが含まれます。

考え方のダイバーシティの例)
・アンコンシャスバイアスの有無
・公平性への理解、共感
・仕事への向き合い方
・組織との付き合い方

働き方のダイバーシティ

働き方のダイバーシティは、仕事の進め方や働く環境の多様性を指します。これには、短時間勤務や副業などの働き方の多様性のほか、専門的なスキルの活用などが含まれます。

働き方のダイバーシティの例)
・柔軟な勤務時間(フレックスタイム、勤務時間選択制など)
・短時間正社員、時短勤務制度
・副業・兼業、パラレルワーク
・就労場所の選択肢(フリーアドレス、在宅勤務、ワーケーションなど)
・週休三日制
・キャリアコースの選択肢(スペシャリスト、ゼネラリスト)




組織における多様性(ダイバーシティ)受容の効果

多様性が組織に与える影響は多岐にわたります。以下に、代表的な影響を挙げます。

創造性と問題解決能力の向上

多様なバックグラウンドや視点を持つ従業員が集まることで、異なる考え方やアプローチが生まれやすくなります。これにより、新しいアイデアや革新的な解決策が生まれやすくなります。

また、多様な背景を持つメンバーで構成されるチームは、複雑な問題に対してより多角的な視点からアプローチが可能になります。異なる経験や知識を持つメンバーが協力することで、より包括的な問題解決が可能となります。

優秀な人材の獲得・定着

多様性を受け容れることによって多様な人材にアプローチでき、幅広いバックグラウンドを持つ人員の中から組織にとって優先度の高い人材を獲得することが出来ます。

また、そのような人材が活躍できる環境を整えることでどのような人材でも働きやすくなり、定着率も高まります。

組織の社会的責任の担保とブランドイメージの獲得

多様性を重視する組織はSDGsの観点でも社会的責任を果たしていると見なされ、ブランドイメージや評判が向上します。これにより、ステークホルダーからの信頼が増し、ビジネスチャンスも広がります。




組織が多様性を持たなければならない理由

組織におけるダイバーシティは積極的に組織のプレゼンスを向上させるだけではなく、リスク管理の観点からも重要です。ここではその中から代表的な観点を紹介します。

グループシンク(集団浅慮)

日本の多くの組織や企業は同質性の高いメンバーで構成されています。具体的に言えば、組織のマジョリティ(多数派)は日本語を母語とする男性で異性愛者ということになります。このような同質性の高い集団では、グループシンク(集団浅慮)が起こりやすくなることが分かっています。

グループシンク(集団浅慮)とは、同質性の高い集団で働きやすい集団心理で、集団で合意形成をすることによって、個人で考えた方針やアイデアよりも質が劣り、好ましくない結論を導き出してしまうことを言います。例えば、様々な研究において、同質性の高い組織では下記のような問題点が指摘されています。

1)集団の実力を過大評価してしまう
2)不都合な悪い情報の遮断してしまう
3)内部からの批判や異議をゆるさなくなる
4)他の集団をきちんと評価しなくなる
5)疑問を持たないように「自己検閲」が働く
6)全員一致の幻想を持つ
7)逸脱する人を許さず、合意するように働きかける
8)集団内の規範を重視する

組織イメージの棄損と資金調達上のリスク

組織、特に企業は社会的責任を果たすことを求められています。そのうちの一つが多様性の包摂です。同質性を高める方向に組織のメンバーを揃えてしまうと、この責任の放棄とみなされかねません。

現在、投資家の多くはESG投資に注目しています。 ESGとは、企業の長期的な成長に Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の3つの非財務的な観点が重要だとする考え方で、多様性の受容はここにも大きく影響してきます。したがって同質性が高い組織は資金調達の面でもリスクを抱えることになるのです。

ハラスメント・労務管理上のトラブルリスク

同質性の高い組織では異質なものに拒否感を持つため、ハラスメントの温床となります。心理学では「集団の好ましい成員が、同じ程度に好ましい外集団成員よりも高く評価され、内集団の好ましくない成員が、同じ程度に好ましくない外集団成員よりも低く評価されるという現象」を黒い羊効果と呼びますが、このような状況を是としてしまいかねないという点で内集団バイアスが働く組織はきわめハラスメントが起こりやすく、また正当化されかねないという深刻な労務管理上のリスクがあります。

これらのような事態を防止するため、多様性の推進と受容が必要とされています。



組織における多様性(ダイバーシティ)受容の課題

組織において、現在多様性を受容することは必要不可欠な課題です。しかし、多様性を受容することは組織にとって困難を伴います。ここではその主な理由を説明します。

同質性が崩れることによる不協和

ダイバーシティを推進していくと、既存の同質的な集団にくくれない存在が現れてきます。マイノリティ(少数派)の中で一番数が多いのは女性ですが、そのほかにも障がい者や外国籍、LGBTQ+なども組織のメンバーに増えていくと、マジョリティには想定しなかったような問題が生じます。

その問題の「想定のできなさ」がストレスとなることで、組織が多様になっていくことに対する心理的抵抗が生じます。

コミュニケーションコストの増加と説明能力・言語化の不足

同質性の高い集団ではコミュニケーションコストが低下します。ツーといえばカーのような、説明の背景を省いたコミュニケーションは同質性の高い集団の特徴です。なぜなら、「言わなくても分かる/伝わる」ことはコミュニケーションの発信者にとって快適な状態であり、受け手は「言われなくても分かる/伝わっている」ことが組織の一員としてのアイデンティティとして機能してしまうからです。このような状態では本質的には発信者の話を理解できなくても、聞き返すこと自体が異質な行為になってしまいます。これはグループシンク(集団浅慮)が起こる原因の一つです。

しかし、多様性のある集団では、もともとの前提を共有していないことも多いため、このような状態ではコミュニケーションが円滑に進みません。誤解を生まずに自分の意志や要求を伝えるためには適切な言葉を補うなどの言語化能力、論理的に会話を進める力などが要求されますが、そのようなトレーニングを積んでいる人は多くありません。

そのため、コミュニケーションコストが増加し、多様化することによる負荷を強く感じます。

心理的ホメオスタシスによる抵抗

人間にはもともと「現状を維持したい」という心理があります。これを心理的ホメオスタシスといい、変化を拒む要因の一つです。

ホメオスタシスとは恒常性と訳され、もともとは生物学での用語です。心理的ホメオスタシスが維持されると快適で心の安定が保ちやすくなります。その反面、変化を好まないというデメリットもあります。

多様性の受容は異なる価値観に自分をさらすことになるため、心理的ホメオスタシスが揺らぎやすくなります。そのため、多様性の高い組織において心理的安全性が低い場合には、かえって生産性が低下するという研究結果もあります。

参考:集団の特徴としての心理的安全性の測定https://www.recruit-ms.co.jp/research/thesis/pdf/2022JAAS2.pdf




組織に多様性を根付かせるためのステップ

組織が多様性を受容するためにはステップを踏んでいくことが大切です。ここではそのステップを簡単にご説明します。

社内理解の醸成

まずは社員全体がダイバーシティの重要性を理解することが必要です。これにより、共通の認識を持つことができます。このステップでは経営者や役員会での合意形成を行うほか、社内研修やセミナーを通じて、ダイバーシティの意義や効果について学ぶ機会を提供します。

社内風土の認知と受容

現状の社内風土を認識し、それを受け入れることが重要です。現在の状況を正確に理解しなければ、効果的な施策を立案することは困難です。このステップではアンケートやヒアリングを行い、社員の意識や社内文化を把握します。

課題の発見

現状の社内風土を基に、具体的な課題を発見します。データ分析や問題点の洗い出しを行い、改善が必要な点を特定します。

施策の立案・テスト試行

発見した課題に対して仮説を立て、具体的な施策を立案し、実際に試行してみるフェーズです。パイロットプログラムを導入し、小規模で試験運用を行います。プランの結果はPDCAサイクルに載せること、特に実行(Do)、確認(Check)、改善(Act)のサイクルを回していくことで、持続的な改善を図ります。

PDCAサイクル継続による多様性の定着

PDCAサイクルを繰り返し、新しい社内風土を形成します。これにより、多様性が受容され、組織文化の一部として定着します。成功事例の共有や継続的なコミュニケーションを通じて、新しい風土の根付きを促進します。

特に最初のステップである「理解・認知・受容」が重要で、これが成功すれば、その後の施策がスムーズに進行しやすくなります。




当事務所の多様性の受容・推進に関するサービス

村井社会保険労務士事務所では、株式会社ファミレッジと共同で多様性の定着に伴う課題・阻害要因の解消を目的としたコンサルティングメニューをご用意しております。
詳しくは下記よりお問い合わせください。

また、多様性の受容には副業・兼業やパラレルワークなどの越境体験も効果があります。副業の解禁や受入れにあたってのルールメイキング、規則作成も是非当事務所にお任せください。

単発の研修での対応も承ります。DEI意識研修、ダイバーシティマネジメント研修など、お気軽にご用命ください。







この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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