「かわいい」と言っただけでセクハラになるのか――。2025年の東京地裁判決をもとに、問題視された点を解説。職場での「褒め言葉」やアンコンシャスバイアスがもたらすリスク、適切な関係性に向けて職場が取り組むべき労務管理についての考え方を整理します。
「かわいい」はセクハラ? 話題となった地裁判決

2025年10月の東京地裁判決は、宅配関連会社の営業所で勤務していた女性社員が、同じ営業所の男性係長から継続的なセクハラを受けたとして、損害賠償を求めた事件の判決です。
原告女性が職場で「〇〇ちゃん」と名前を呼ばれたのはセクハラだとして元同僚に対し約550万円の慰謝料を請求し、裁判所も「社会通念上許容される限度を超えた違法なハラスメント」と認定したことで、様々なメディアで大きく取り上げられました(東京地方裁判所令和5年(ワ)第25623号)。
しかし判決文を読む限り、この判決に至る過程として、「かわいい」という発言それ自体と言うよりも、それらを含む様々な要因があったことが考えられます。
この事案では、被告男性は営業課係長であり、被害者女性はカスタマーサービス課の社員でした。形式上は直属の上司部下ではなかったものの、業務上、被害者が相談・報告を行う関係にあり、裁判所は「上司に類する立場」と認定しています。そのような力関係の中で、下記のような行為が継続的に行われたと言う点が重視されました。
<裁判所が認定した行為の例>
・被告男性が原告女性のことを日常的に「〇〇ちゃん」と呼ぶ
・被告男性が原告女性を驚かせて悲鳴を挙げさせ「今のかわいい」と発言した
・被告男性が原告女性がかがんだ際に「下着が見えてしまうよ」と言い、また一連の会話の中で「体格いいよね」と言った
・被告男性は原告女性の自宅に業務と無関係な内容の電報便を事前承諾なく送付し、その宛名も原告女性のフルネームではなく「○○ちゃん」と書かれていた
原告女性は上記のほか、被告男性から「好きだよ」「胸の空いた服を着て」などの発言を受けたと主張しましたが、被告男性が発言を明確に否定したほか発言がされた経緯や時期の裏付けが取れず、主張は退けられました。
原告女性が職場で「〇〇ちゃん」と名前を呼ばれたのはセクハラだとして元同僚に対し約550万円の慰謝料を請求し、裁判所も「社会通念上許容される限度を超えた違法なハラスメント」と認定したことで、様々なメディアで大きく取り上げられました(東京地方裁判所令和5年(ワ)第25623号)。
しかし判決文を読む限り、この判決に至る過程として、「かわいい」という発言それ自体と言うよりも、それらを含む様々な要因があったことが考えられます。
この事案では、被告男性は営業課係長であり、被害者女性はカスタマーサービス課の社員でした。形式上は直属の上司部下ではなかったものの、業務上、被害者が相談・報告を行う関係にあり、裁判所は「上司に類する立場」と認定しています。そのような力関係の中で、下記のような行為が継続的に行われたと言う点が重視されました。
<裁判所が認定した行為の例>
・被告男性が原告女性のことを日常的に「〇〇ちゃん」と呼ぶ
・被告男性が原告女性を驚かせて悲鳴を挙げさせ「今のかわいい」と発言した
・被告男性が原告女性がかがんだ際に「下着が見えてしまうよ」と言い、また一連の会話の中で「体格いいよね」と言った
・被告男性は原告女性の自宅に業務と無関係な内容の電報便を事前承諾なく送付し、その宛名も原告女性のフルネームではなく「○○ちゃん」と書かれていた
原告女性は上記のほか、被告男性から「好きだよ」「胸の空いた服を着て」などの発言を受けたと主張しましたが、被告男性が発言を明確に否定したほか発言がされた経緯や時期の裏付けが取れず、主張は退けられました。
「〇〇ちゃん」呼びは明確にNG

被告被告は原告女性のことを日常的に「〇〇ちゃん」という愛称で呼んでいましたが、裁判所は下記の理由から明確にセクハラであると判断しました。
・一般的に幼少の子どもに対して用いられる呼び方であり、成人に対して用いられるのは交際相手等の親密な関係にある場合が多いこと
・業務上においてこのような呼称を用いる必要性は直ちには見出し難いこと
・親しみを込めて愛称を使っていたとしても、原告女性と被告男性の年齢や性別、本件営業所に勤務する従業員同士にすぎないという両者の関係性等に照らすと、原告を「ちゃん」付けで呼ぶことは原告に不快感を与えるものであったといえるものであること
・厚生労働省が公表している「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)においても、「「〇〇ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた」ことが心理的負荷を与える出来事の例として挙げられていること
また、前述のような不適切な行為が継続的に行われたものであること、被告が原告の上司に類する立場にあったことも踏まえれば、これら被告の原告に対する一連の行為は、社会通念上許容される限度を超えた違法なハラスメントとして、不法行為に当たるとして原告男性に対し慰謝料・弁護士費用として22万円の支払いを命じました。
・一般的に幼少の子どもに対して用いられる呼び方であり、成人に対して用いられるのは交際相手等の親密な関係にある場合が多いこと
・業務上においてこのような呼称を用いる必要性は直ちには見出し難いこと
・親しみを込めて愛称を使っていたとしても、原告女性と被告男性の年齢や性別、本件営業所に勤務する従業員同士にすぎないという両者の関係性等に照らすと、原告を「ちゃん」付けで呼ぶことは原告に不快感を与えるものであったといえるものであること
・厚生労働省が公表している「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)においても、「「〇〇ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに当たる発言をされた」ことが心理的負荷を与える出来事の例として挙げられていること
また、前述のような不適切な行為が継続的に行われたものであること、被告が原告の上司に類する立場にあったことも踏まえれば、これら被告の原告に対する一連の行為は、社会通念上許容される限度を超えた違法なハラスメントとして、不法行為に当たるとして原告男性に対し慰謝料・弁護士費用として22万円の支払いを命じました。
なぜ"継続性”が重視されるのか
ハラスメント相談では、加害行為者から「そんなつもりではなかった」という説明がされることがあります。しかし、加害者にとって「毎回のこと」と麻痺する行為も、被害者にとっては毎回「新鮮な体験」になり得ます。
今回の裁判でも、「かわいい」という発言もさることながら、「日常的なちゃん付け呼び」「体型への言及」などが継続的に積み重なっていたことが重視されました。
ハラスメントは、“単発の爆発”というより、“小さな違和感の蓄積”として進行することが少なくありません。最初は「自分が気にしすぎなのかもしれない」「波風を立てないほうが仕事がしやすい」などと自ら受け流していた行為でも、継続的に受け続けることによって蓄積し、精神的疲労につながったり、自尊感情が傷ついたりすることで、「職場にいるだけで苦しい」「また何か言われるのではないか」という心理状態に至るケースがあります。
今回の裁判でも、「かわいい」という発言もさることながら、「日常的なちゃん付け呼び」「体型への言及」などが継続的に積み重なっていたことが重視されました。
ハラスメントは、“単発の爆発”というより、“小さな違和感の蓄積”として進行することが少なくありません。最初は「自分が気にしすぎなのかもしれない」「波風を立てないほうが仕事がしやすい」などと自ら受け流していた行為でも、継続的に受け続けることによって蓄積し、精神的疲労につながったり、自尊感情が傷ついたりすることで、「職場にいるだけで苦しい」「また何か言われるのではないか」という心理状態に至るケースがあります。
「褒めたつもり」は免罪符にならない

また加害側からしばしば語られるのが、「褒めたつもりだった」「親しみを込めて言っただけだった」という言葉です。しかし、ハラスメントの場面では、この「つもり」は必ずしも免罪符にはなりません。
なぜなら、その“つもり”の背景には、本人も気づいていないアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や固定観念)や、マイクロアグレッション(無自覚な差別的・排除的言動)が含まれていることがあるからです。
例えば、下記のような言動は、アンコンシャスバイアスがセクハラという形で表出した例と言えます。
・「愛嬌があるから受付向きだよね」と女性に接客役を集中させる
・飲み会で「彼氏(彼女)はいる?」「結婚しないの?」といった話題を自然な雑談として聞く
・「男性なのに共感性が高いよね」「女性にしては論理的だね」と言う
これらは一見すると何気ない会話や褒め言葉にも見えます。しかしその背景には、
・女性は愛想よく振る舞うべき
・女性は論理性より共感性が求められる
・男性は感情表現が苦手である
・恋愛や結婚の話題は誰にでも聞いてよい
といった、性別や属性に対する無意識の前提が含まれている場合があります。
また、こうした言動について指摘を受けた際に、
・「そんなことで怒るなんて冗談が通じない」
・「悪気はない」
・「褒めているんだから問題ない」
などと受け止めることは、相手が感じた不快感や問題提起を矮小化・否認することにつながります(マイクロアグレッション)。
その結果、相手に「どうせ言っても理解されない」「我慢するしかない」という無力感を与えたり、セカンドハラスメントに発展するリスクもあります。
特に、上下関係や評価関係がある職場では、受け手は簡単に拒否できません。そのため、言った側は軽い雑談や褒め言葉としての発言であっても、受け手には「評価されている」「見られている」「役割を押しつけられている」という圧力として蓄積していくことがあります。
だからこそ、現在のハラスメント実務では、「そんなつもりではなかった」よりも、
・その言動が業務上必要だったのか
・相手にどう受け取られうるものだったのか
・力関係を踏まえて適切な言動だったのか
という視点が重視されるようになっています。
なぜなら、その“つもり”の背景には、本人も気づいていないアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や固定観念)や、マイクロアグレッション(無自覚な差別的・排除的言動)が含まれていることがあるからです。
例えば、下記のような言動は、アンコンシャスバイアスがセクハラという形で表出した例と言えます。
・「愛嬌があるから受付向きだよね」と女性に接客役を集中させる
・飲み会で「彼氏(彼女)はいる?」「結婚しないの?」といった話題を自然な雑談として聞く
・「男性なのに共感性が高いよね」「女性にしては論理的だね」と言う
これらは一見すると何気ない会話や褒め言葉にも見えます。しかしその背景には、
・女性は愛想よく振る舞うべき
・女性は論理性より共感性が求められる
・男性は感情表現が苦手である
・恋愛や結婚の話題は誰にでも聞いてよい
といった、性別や属性に対する無意識の前提が含まれている場合があります。
また、こうした言動について指摘を受けた際に、
・「そんなことで怒るなんて冗談が通じない」
・「悪気はない」
・「褒めているんだから問題ない」
などと受け止めることは、相手が感じた不快感や問題提起を矮小化・否認することにつながります(マイクロアグレッション)。
その結果、相手に「どうせ言っても理解されない」「我慢するしかない」という無力感を与えたり、セカンドハラスメントに発展するリスクもあります。
特に、上下関係や評価関係がある職場では、受け手は簡単に拒否できません。そのため、言った側は軽い雑談や褒め言葉としての発言であっても、受け手には「評価されている」「見られている」「役割を押しつけられている」という圧力として蓄積していくことがあります。
だからこそ、現在のハラスメント実務では、「そんなつもりではなかった」よりも、
・その言動が業務上必要だったのか
・相手にどう受け取られうるものだったのか
・力関係を踏まえて適切な言動だったのか
という視点が重視されるようになっています。
セクハラになりにくい声掛けとは

では、職場で何を意識すべきなのでしょうか。実務上は、次の2点が非常に重要です。
① 業務に関連しないことには基本的に言及しない
特に、
・容姿
・年齢
・恋愛
・結婚
・性的指向
・体型
・私生活
などは、業務必要性が極めて乏しい領域です。
「場を和ませるつもり」であっても、相手にとっては“評価されている”“見られている”感覚につながることがあります。
・容姿
・年齢
・恋愛
・結婚
・性的指向
・体型
・私生活
などは、業務必要性が極めて乏しい領域です。
「場を和ませるつもり」であっても、相手にとっては“評価されている”“見られている”感覚につながることがあります。
② 「ほめたつもり」は基準にならない
重要なのは、「自分はどう思ったか」ではなく、「第三者から見てどう評価されるか」です。ハラスメントは、本人の主観だけではなく、関係性や継続性、業務上での必然性や社会通念などを踏まえて総合判断されます。
だからこそ、
・誤解されやすい言動を避ける
・私的領域に踏み込みすぎない
・相手との力関係を意識する
ことは非常に重要です。
だからこそ、
・誤解されやすい言動を避ける
・私的領域に踏み込みすぎない
・相手との力関係を意識する
ことは非常に重要です。
村井社会保険労務士事務所のハラスメント対応支援

ハラスメント問題は、「加害者を処分する」「被害者を守る」だけでは解決しません。
実際の現場では、下記のような“グレーゾーン”への対応に悩む企業・大学・機関が非常に多くみられます。
・「どこからがハラスメントなのか分からない」
・「指導との線引きが難しい」
・「悪気はなかったが、相手を傷つけてしまった」
・「相談があったが、どう対応すべきか判断できない」
・「組織内で認識にばらつきがある」
こうしたお悩みに対し、村井社会保険労務士事務所では、単にハラスメント事実の認定等に関するサポートを行うだけでなく、「組織構造やコミュニケーションにどのような課題があるのか」「再発防止のために何が必要なのか」という観点から、実務的なハラスメント対策支援を行っています。
具体的には、組織特性に応じて下記のようなメニューをご用意しております。
・ハラスメント研修(管理職向け・一般職向け等)
・相談窓口対応支援
・社内調査・ヒアリング支援
・就業規則・相談窓口規程整備
・ハラスメント再発防止提案
特に近年は、「悪意のある加害者」を前提とした対策だけではなく、“無自覚な加害”をどう防ぐかが重要になっています。
だからこそ、単なる禁止事項の周知ではなく、人権やコンプライアンスの観点から全社的に対策を行う必要があります。
ハラススメントは、「誰か特別な人」が起こす問題ではありません。むしろ、日常のコミュニケーションの延長線上で、小さな違和感が積み重なることで起こることが少なくありません。
だからこそ重要なのは、「違反しないこと」だけではなく、「相手が安心して働ける関係性をどう作るか」という視点です。
職場の信頼関係は、一度壊れると簡単には元に戻りません。
問題が深刻化する前に、自組織のコミュニケーションや職場風土を見直す機会を持つことが、結果として組織と働く人の双方を守ることにつながるのではないでしょうか。
ぜひ、ハラスメント対応にお悩みの企業・組織の経営者の皆様、人事労務ご担当者様は当事務所のハラスメント対応メニューをご利用ください。


実際の現場では、下記のような“グレーゾーン”への対応に悩む企業・大学・機関が非常に多くみられます。
・「どこからがハラスメントなのか分からない」
・「指導との線引きが難しい」
・「悪気はなかったが、相手を傷つけてしまった」
・「相談があったが、どう対応すべきか判断できない」
・「組織内で認識にばらつきがある」
こうしたお悩みに対し、村井社会保険労務士事務所では、単にハラスメント事実の認定等に関するサポートを行うだけでなく、「組織構造やコミュニケーションにどのような課題があるのか」「再発防止のために何が必要なのか」という観点から、実務的なハラスメント対策支援を行っています。
具体的には、組織特性に応じて下記のようなメニューをご用意しております。
・ハラスメント研修(管理職向け・一般職向け等)
・相談窓口対応支援
・社内調査・ヒアリング支援
・就業規則・相談窓口規程整備
・ハラスメント再発防止提案
特に近年は、「悪意のある加害者」を前提とした対策だけではなく、“無自覚な加害”をどう防ぐかが重要になっています。
だからこそ、単なる禁止事項の周知ではなく、人権やコンプライアンスの観点から全社的に対策を行う必要があります。
ハラススメントは、「誰か特別な人」が起こす問題ではありません。むしろ、日常のコミュニケーションの延長線上で、小さな違和感が積み重なることで起こることが少なくありません。
だからこそ重要なのは、「違反しないこと」だけではなく、「相手が安心して働ける関係性をどう作るか」という視点です。
職場の信頼関係は、一度壊れると簡単には元に戻りません。
問題が深刻化する前に、自組織のコミュニケーションや職場風土を見直す機会を持つことが、結果として組織と働く人の双方を守ることにつながるのではないでしょうか。
ぜひ、ハラスメント対応にお悩みの企業・組織の経営者の皆様、人事労務ご担当者様は当事務所のハラスメント対応メニューをご利用ください。

