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パワハラ・グレーゾーンが生じる理由とその対策

パワハラ・グレーゾーンが生じる理由とその対策

ハラスメントは、現代社会で避けられない問題の一つとなっています。職場や学校など、さまざまな環境で発生し、その影響は被害者・加害者(行為当事者)だけではなく、それが起こった場所や企業へも大きな影響を及ぼします。様々な本記事では、特に職場において発生するパワハラについて、研修だけでは抑制できない理由やそれが生じる構造的要因、その対策について社会保険労務士が解説します。

職場で起こるパワー・ハラスメント対策の限界とその理由

ハラスメントとは、「いじめ」「いやがらせ」を意味する言葉です。職場においてはパワー・ハラスメント(パワハラ)やセクシャル・ハラスメント(セクハラ)など多くのハラスメントが起こりうるため、組織では相談窓口の設置や研修の実施など様々な対策を行っています。

セクハラは業務上一切必要のないものであり、基本的にはすべて撤廃をする必要があるものです。しかし、パワハラは業務上必要な指導の延長線上にあるものであり、一律に対策をしても実効性を得にくい側面があります。

その主な理由を下記に示します。
・ハラスメントはグレーゾーンが生じやすく、境界の判断が難しいから
・ハラスメントが疑われる行為に対する感じ方が人によって異なるから
・ハラスメント行為の加害者(行為当事者)は加害行為の自覚がないから

パワハラはグレーゾーンが生じやすく、境界の判断が難しいから

パワーハラスメント(以下、パワハラ)は、職場において上司や同僚からの不適切な言動や行動が、部下や同僚に対して精神的・身体的な苦痛を与える行為を指します。しかし、その境界線は必ずしも明確ではなく、しばしば「グレーゾーン」と呼ばれる領域が存在します。

パワハラにはいくつかの典型的なパターンがありますが、それらがグレーゾーンに分類されることも少なくありません。以下に、パワハラの6類型をもとに説明します。


身体的な攻撃


明らかな暴力行為や威嚇的な態度は、誰が見てもパワハラに該当するでしょう。これは「ブラックゾーン」とも言える領域であり、即座に対応が必要です。

精神的な攻撃


言葉による侮辱や名誉毀損、無視や陰口なども明確なパワハラ行為です。精神的な攻撃は身体的な攻撃と同様に、被害者に深刻なダメージを与えるため、直ちに解決すべき問題です。


人間関係からの切り離し


同僚からの孤立を図る行為や、特定の社員を会議やイベントから意図的に除外することも、パワハラと見なされる可能性があります。しかし、業務上の必要性やチームの効率化を理由に行われることもあり、その場合にはグレーゾーンに分類されることがあります。


過大な要求


過度な業務負荷や、達成不可能な目標を押し付けることはパワハラ行為とされます。ただし、繁忙期で業務量が一時的に増加したり、人材育成の観点から難易度を少しあげた要求が出されるなどの場合は業務上の正当な要求と判断される可能性があります。その場合、当事者がパワハラだと感じてもグレーゾーンに留まることがあります。


過小な要求


能力を過小評価して簡単な仕事しか与えない場合も、モチベーションを削ぎ、精神的なダメージを与えるためパワハラとなり得ます。しかし、リワークプログラムや妊娠している労働者の心身保護などの観点であれば、グレーゾーンとなることがあります。


個の侵害


プライバシーに関わる事項を不必要に詮索したり、個人の信条やライフスタイルに干渉する行為もパワハラの一環です。とはいえ、職場の規律や倫理に基づく指導である場合、その判断は曖昧になることがあります。


パワハラが疑われる行為に対する感じ方が人によって異なるから

先に挙げた6類型のうち、身体的な暴力や精神的な暴力は周囲から見ても明らかにその程度が分かりやすく、判断は比較的容易です。しかし、その他の類型では行為の頻度や妥当性、行為当事者の関係性など複数の判断基準に照らしてパワハラの事実が判断されます。

この判断基準の一つに、「平均的な労働者の感じ方」というものがあります。しかし、同じ行為を経験したとしても、その受け取り方は労働者一人一人によって異なります。特にグレーゾーンに該当するような行為の場合は、それをパワハラかどうかと感じるかは個人差が生じやすい傾向があります。そのため、ある行為についてもその労働者の立場や経験などによって画一的にパワハラ認定をすることは難しく、研修などでも一律の解を得にくくなります。

パワハラ加害者(行為当事者)には加害行為の自覚がないから

パワハラの加害行為の行為当事者は、多くの場合自分が加害行為をしている自覚がありません。例えば 上司が「指導」のつもりで行った言動が、部下には「攻撃」や「否定」として受け取られる場合などは上司の意図と部下の受け取り方の間にギャップが生じます。また、職場の慣習や文化などによってアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が生じ、そこに無自覚である場合はパワハラと受け取られる場合があります。


パワハラ・グレーゾーンが生じる構造的原因

パワハラ認定のグレーゾーンが生じるのは、大きく分けて以下の3つの原因があると考えられます。

現在の事象について過去の類似の経験を当てはめて判断してしまうから

パワハラが疑われる行為について、被害を受けた労働者も加害が疑われる行為の当事者である労働者も、それぞれ自分の過去の経験に基づいてその行為の是非を判断しがちです。たとえば現在50代の管理職者で「営業といえば身銭を切って接待をすることは当然だ」と指導され、効果を挙げてきた人がいるとします。この人が新卒の部下をもった場合、その成功体験から同様に部下を指導することが予測されますが、部下にはそのような過去の経験がなく、異なる基準でその指導を受け止めます。

このように、過去の類似の経験から現在の事象の是非を判断すると、その経験の差によってグレーゾーンが生じます。

アンコンシャス・バイアスに無自覚だから

アンコンシャス・バイアスとは無意識の偏見と訳される言葉で、私たちが無意識的に身に着けているものの見方や考え方によって認知が歪んでしまうことを言います。

アンコンシャス・バイアスは無意識に様々な眼鏡を掛けている状態とも言えますが、その眼鏡を装着しているのが自分だけだという気づきは自覚的にならなければ得られません。また、アンコンシャス・バイアスは自分が目にすることができる事象や情報から全体像を推理してしまうことでも生じるため、その過程で情報を自分が扱いやすい形に加工したり、補正してしまうなどのゆがみが生じます。

そのため、パワハラと疑われる行為が生じたときに、「あの人はそんなことをしない」という行為者への印象補正が行われたり、「あの人の受け取り方が過敏すぎるのでは」といった認知のゆがみが無意識に生じる可能性があります。このような理由により、アンコンシャス・バイアスはパワハラ認定のグレーゾーンの原因となります。

現状維持を望む気持ちがあるから

私たちには現状を維持したいという気持ち、変化を忌避する脳の働きがあります。これを心理的ホメオスタシスと言い、自分が心から変わりたいという気持ちがあったとしても、それを拒む心理のことです。

パワハラ認定は良くも悪くもその職場における現状を変化させる行為です。また、自分がその行為を黙認していた場合、「それを罪だと認定する行為」に対して心理的に抵抗感を覚えることもあります。

パワハラが恒常的に発生している職場では、パワハラ行為が「普通」として扱われてしまっていることもあります。このような職場でパワハラ行為を告発したり咎めたりすることは現状を変化させる行為であり、告発した人を抑圧するような行動も起こりえます。「このくらいのことで波風をたてなくても」という気持ちを抱かせる現状維持バイアスやそのような状況を肯定的に受け止める心理的ホメオスタシスがある場合、パワハラ認定のグレーゾーンは広がる可能性があります。

パワハラ・グレーゾーンへの対処法

グレーゾーンに位置するパワハラの可能性がある行為を生まないために、ハラスメント研修を行うことはもとより、職場で取り組める対策として下記のようなものが考えられます。

自己理解を深め、自分にとって許容しがたい価値観があることを自覚する

パワハラ加害をする行為当事者も、加害行為を自覚的にしていることは稀です。それなのになぜ加害行為を行ってしまうのかというと、自分にとって「当然」であったり「……するべきだ」といった規範が存在し、それを第三者に押し付けてしまう場合があるからです。

このような自分にとっての当然の前提や倫理観をきちんと自覚し、自己理解をしていくことで、自分がどのような相手に対し過敏に反応してしまうかを知ることは重要です。職場には様々な背景や価値観を持ったメンバーがいるので、自分の許容しがたい価値観を知ることにより、自分にとって許容しがたい価値観を持つ相手とどのように付き合っていけばいいかをあらかじて想定しておくことができ、トラブル防止に繋がります。

オープンかつフラットなコミュニケーションで相互理解を深める

当事者間での率直な話し合いが、誤解や認識のズレを解消する助けとなります。上司と部下、または同僚同士が、日常的にコミュニケーションを図ることで、問題がエスカレートする前に対処することができるでしょう。

また、このような場を用意することで相互の自己開示が進むことが期待できます。お互いが持つ考え方の違いや許容できる範囲の相違などを理解しあうことで、グレーゾーンの範囲を縮小することができます。

正義感の行使の危険性を知り、自分の正義を疑うトレーニングを行う

ハラスメントの一因として、時に「正義」が暴走することが挙げられます。

「自分は正しい」「相手は間違っている」という強い信念は、人を非常に行動的にさせます。例えば、職場で誰かがミスを犯した場合、その人を厳しく叱責することで、ミスを正すことが正義であると感じるかもしれません。このとき、正義感に基づいた行動は、他者を傷つける結果となることがあります。さらに、こうした行動が繰り返されると、加害者自身がそれを正当化しやすくなり、ますます攻撃的になってしまいます。

また、ハラスメントの被害者だと自分を捉えたとき、相手の意見や行動に対して「だから正さなければならない」「罰してやりたい」という感情が芽生えがちです。そうした感情の動きがあると正当な指導であっても「パワハラだ」と感じやすくなり、ハラスメント・ハラスメントのリスクも生じます。

このように、「正義感」による行動が過剰になると、他者に対する攻撃的な言動や行動を正当化し、結果的にハラスメントへとつながる危険性があります。したがって、自分が絶対に正しいという前提を疑い、客観視するトレーニングを行うことはグレーゾーンの解消に役立ちます。

自分に対して適切な距離でない相手のかかわりを最低限にする

パワハラを防ぐためには、対人関係の距離感が重要です。特に、自分に対して過度に親密な態度を取る相手や、逆に攻撃的な態度を取る相手と一対一で会うことは避けるべきです。一対一の場面では、主観がぶつかり合い、冷静な対話が難しくなる可能性があります。

また、適切な距離を保てない相手とはパワハラだけでなくセクハラや脅迫、暴行といった危険性も潜んでいます。可能な限り、第三者を同席させることで、客観性を保ち、難しい状況を避ける準備をしておくことが肝心です。客観性を確保するために、場合によっては会話を記録するなどの対策を講じることも効果的です。

組織としては異性・同性にかかわらず、社員が1対1で密室にこもるような面談を行わないよう配慮するとともに、取引先などにもこうした取組を行っていることを伝えましょう。

日ごろから周囲に信頼を得られるように行動する

パワハラから身を守るために、信頼できる相談相手を持つことが大切です。適切な相談先を事前に確保しておくことで、いざというときに心強いサポートが得られます。会社としてはハラスメントの相談窓口がきちんと機能するよう、定期的に研修を行ったり、外部の専門家を活用するなど社員からの信頼性の担保に努めましょう。

また、日頃から自分の味方になってくれる信頼できる人間関係を築いておくことも重要です。こうした仲間は、いろいろな立場やポジションにいるとさらに安心です。普段からの言動が信頼を築く基礎となり、いざというときに最大の武器となります。

組織としては階層を問わずリーダーシップ研修を行ったり、自己開示のトレーニングをする機会を設けることでより周囲に対して信頼を得られるよう環境を整えることが必要です。

パワハラのグレーゾーンが生じた場合は即時処分をしない

パワハラが疑われる状況に直面した際、すぐにその事象に対して名前を付けたり、レッテルを貼ったりすることは避けましょう。ネガティブな感情に流されることなく、どうにもならない状況でも焦らずに情報を多角的に収集し、そのうえで判断するようにしましょう。

もちろん、明らかな暴力行為など人権侵害に該当する場合は直ちに措置が必要です。しかし、平均的な労働者の考え方に照らしてもあいまいな場合などは、短絡的に答えを出そうとすることで、誤った判断をする可能性があります。たとえパワハラ行為の加害者だったとしても、組織は労働者の心身の健康を守る必要があります。だからこそ、そのため冷静に状況を見極め、より良い解決策を見つけることが必要です。

村井社会保険労務士事務所のパワハラ対策プログラム

村井社会保険労務士事務所では、労務顧問として多くのパワハラ対策を実施し、被害者・加害者(行為当事者)のヒアリングの経験も豊富にあります。その知見を活かし、労務顧問として常に経営者や管理職者の相談に乗ることで、実効的なハラスメント対策を提供しています。

また、研修では法令研修としてハラスメントの定義や裁判例などを解説するほか、パワハラ・グレーゾーンの解消につながるグループディスカッションや事例検討のプログラムを用意しています。






さらに、株式会社ファミレッジのプログラムとして、エニアグラム性格論をベースにした社員一人ひとりの自己理解とコミュニケーションの改善をパワハラ対策に組み入れたコンサルティングサービスを用意しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。


パワハラ・グレーゾーンが起こる理由を知り、対策しよう

パワハラは被害者・加害者(行為当事者)の人生を狂わせる非常に重大なものであり、企業にとってもその価値やブランドを棄損する課題です。だからこそ、ハラスメント研修だけでは対策しきれない構造的原因の解消について理解を深め、対策を行うことが重要です。








この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

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