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労務管理を社労士に外注するメリットと社内で行うデメリット

労務管理を社労士に外注するメリットと社内で行うデメリット

企業が労務管理を適切に行うことは、従業員の労働環境を整え、組織の生産性を向上させるために欠かせない要素です。しかし、労務管理の方法には大きく分けて「社内で実施する方法」と「社労士に外注する方法」の二つがあります。
企業経営において、社会保険労務士の支援を受けることが業績向上に寄与することが近年の調査結果からも明らかになっています。特に小規模事業者を対象とした研究において、支援機関を活用している企業の方が利益が高い傾向にあることが示されており、社会保険労務士のような専門家の助言を受けることが、企業の成長を後押しする重要な要因となっていることが分かります。

本稿では、社労士に労務管理を外注するメリットと、社内で行う場合のデメリットについて、詳細に解説します。

社会保険労務士の支援と企業業績の関係

社会保険労務士の支援と企業業績の関係

社会保険労務士の主な業務には、労働保険・社会保険の手続き、労務管理の適正化、就業規則の策定、助成金申請の支援などが含まれます。これらの支援を受けることで、企業は法令遵守の確保とともに、従業員の働きやすい環境を整え、離職率の低減や生産性の向上を実現できます。
中小企業庁の「小規模企業白書」によると、経営計画を策定し、支援機関のサポートを受けた企業は、売上の増加や利益率の向上を実現している事例が多数報告されています。特に労務管理の適正化が進んでいる企業では、従業員の満足度向上が業務効率の改善に結びつき、結果的に収益が安定する傾向があります。

支援を受ける企業の業績傾向

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)の調査によれば、支援機関を活用している企業の約51.5%が営業利益の増加を見込んでいるのに対し、支援を受けていない企業では41.1%にとどまるとの結果が示されています。このデータからも、専門家の助言を受けることが業績向上につながることが明確です。
また、企業の成長には労務環境の整備が不可欠であり、適切な人事・労務管理ができている企業ほど、従業員の定着率が高くなり、長期的に安定した業績を維持できることが分かっています。特に、労働環境の適正化によって生産性が向上し、無駄なコストが削減されることで、利益率の改善が期待できます。

社労士に労務管理を外注するメリット

専門知識による法令遵守の徹底

労働関連法規は頻繁に改正されます。社労士はこれらの法改正に対応する専門知識を持ち、常に最新情報を把握しています。例えば、働き方改革関連法や労働基準法の改正に伴う対応を誤ると、企業は法令違反として罰則を受ける可能性があります。社労士に外注することで、法令遵守が徹底され、リスクを最小限に抑えられます。

業務負担の軽減

労務管理には、従業員の給与計算、労働保険・社会保険の手続き、就業規則の整備、労働時間の管理など、多岐にわたる業務が含まれます。これらを社内で対応するには、多大な時間と労力が必要です。社労士に外注することで、これらの業務を効率化し、経営者や管理部門の負担を軽減することが可能です。

助成金の活用

各種助成金の申請支援を受けることで、経営資金の確保が可能となります。

トラブル対応の迅速化

労務管理において発生しやすい問題として、未払い残業代の請求や労働環境に関する従業員からの苦情があります。社労士はこうしたトラブルに迅速かつ適切に対応し、問題解決を図ることができます。また、労働基準監督署への対応が必要な場合にも、社労士がサポートすることでスムーズに進められます。

従業員の満足度向上

適切な労務管理が従業員のモチベーション向上につながり、生産性が向上します。

コストの最適化

専門の労務管理担当者を社内で雇用する場合、その人件費や研修費用が発生します。一方で、社労士に外注する場合は、必要な業務に応じて費用を支払うため、コストを最適化できます。特に中小企業では、外注によるコスト削減効果が顕著です。

労務管理の客観性と公正性

社内で労務管理を行う場合、社内の人間関係や組織文化が影響し、客観性が欠ける場合があります。社労士に外注することで、第三者の立場から客観的かつ公正な労務管理が実現します。これにより、従業員の信頼を得やすくなります。

就業規則や各種規程の整備

社労士は、企業の実態に合わせた就業規則や雇用契約書の作成を得意としています。これにより、労働条件の明確化やトラブルの未然防止が可能となります。特に、働き方の多様化が進む中で、適切な規則の整備は重要です。

社内で労務管理を行うデメリット

法令対応の遅れ

労働法規は複雑かつ頻繁に改正されるため、専門知識がないと対応が遅れがちです。社内の担当者が最新の法令を把握していない場合、意図せず法令違反となり、企業にとって重大なリスクとなります。

担当者の負担増加

労務管理を社内で行う場合、担当者の業務負担が増加します。特に、中小企業では労務管理を専門に行う人材を配置する余裕がなく、総務や経理が兼務するケースが多いです。この結果、ミスや作業遅延が発生しやすくなります。

専門性の不足

労務管理には高度な専門知識が求められる場面が多々あります。たとえば、労働基準監督署から是正勧告を受けた際や、労働組合との交渉が必要な場合、専門性の不足が問題となります。専門家がいない状況では、適切な対応が難しくなります。

コンプライアンスリスクの増加

社内で労務管理を行う場合、担当者の主観や判断ミスが原因で、コンプライアンス違反が発生する可能性があります。特に、雇用契約書の不備や給与計算ミスなど、細かな点でのトラブルが発生しやすくなります。

組織内でのトラブル対応の難しさ

社内の担当者が労務管理を行うと、従業員との距離が近いため、トラブル対応が感情的になりやすいです。また、問題が発生した場合に第三者的な立場で対応することが難しく、公正性が保たれない場合があります。

効率性の低下

社内の担当者が労務管理を行う場合、業務プロセスの標準化が不十分な場合があります。これにより、非効率な業務運営が続き、企業全体の生産性が低下する可能性があります。

当事務所へ外注をした場合の対応事例

労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている当事務所では、企業の皆様から受ける相談は多岐にわたります。今回は、その一部をご紹介いたします。
※事例は当事者・会社名を匿名にし、事例の本筋に影響を与えない範囲で情報を改変しています。

ハラスメント対応でのご活用事例

地方金融機関C社の20代社員・H川さんが、50代の上司・K山さんからハラスメントを受けていると社内相談窓口宛に相談があり、当事務所にヒアリングのご依頼がありました。
ヒアリングの結果、K山さんの業務上のアドバイスとしての発言がH川さんにとってパワハラとして受け止められていたことがわかりました。つまり、両者の間で『どこからは組織の一員としてよくない行動だ』という線引きがずれていたことが問題だったのです。

事実を精査したところパワハラ認定には至りませんでしたが、まず上司であり立場としても強い存在であるK山さんにH川さんへ誤解させたことについては謝罪させるともに、今後はどのような意図でその発言をしているのかの背景情報も丁寧に共有するよう提案しました。

また組織での再発防止策として、「C社の社員の行動規範」を定めることを提案し、いずれも採用されました。行動規範の制定には年齢・性別・階級の異なるメンバーで構成されたプロジェクトチームを組織し、当事務所のメンバーも参画して合理性・妥当性の判断を担保しました。

業務指導の際にも行動規範に照らして適切かどうかを判断できるようになり、C社は自律的に組織の健全な風土を守る仕組みが構築されています。

育児休業取得者に対する情報提供でのご活用事例

不動産販売を手掛けるM社の人事労務担当者は、かねてから育児関連の法改正の多さと仕組みの複雑さに対応することの困難を感じていました。また、ハラスメントにならないように従業員から情報収集することもどのように進めるべきか迷いがあり、当事務所へ従業員に向けて制度周知のセミナーを毎年行ってほしい旨相談がありました。その際、個別相談の予約を取れるようにし、希望者に対してはより詳細な情報提供を行っています。
昨年度は育児休業取得希望者であるT橋さんほか2名に対し、当事務所からオンラインで利用できる制度の案内や利用するための条件について個別にご説明しました。また、復帰後の意向についても短時間勤務のメリット・デメリットを説明したほか、4月に保育園に入所できない場合の休業延長のプロセスなどもお伝えしました。
社労士から直接説明を受けることができ、当事者の皆さんの満足度・安心感が高まりました。また、育児休業に関する説明プロセスを省くことができ、人事労務担当者の時間的・心理的コストが低下しました。

シフト管理に関する疑問についてのご活用事例

小売業のE社はオンラインショッピングのみで商品販売を行っていましたが、業績拡大のためショッピングモール出店を決めました。モールでは営業時間が長く休業日も少ないため、従来の路面店で採用していた労働時間制では法定の勤務時間を超えてしまいます。そのため、モールの営業時間に合わせてどのような労働時間制を採用すればよいか、シフト制をどのように採用していけば適法に運用できるのかとご相談をいただきました。
当事務所では、モール全体でのイベントシーズンに繁忙期がくることも鑑みて1か月年単位の変形労働時間制を採用するとともに、シフトについてはあらかじめ数パターンを用意し、労働者毎に基本のパターンを設定してはどうかと提案しました。労働者にとっても出勤曜日・日時がパターン化できることで固定客に対する販促が容易になるメリットがあり、会社側も管理が楽にできるという利点がありました。
これによりE社はモール出店後も健全な労務管理ができており、さらに別なモールへの出店も予定されています。その際は当事務所とともに構築したシフト管理方法によって労働者を採用することも決定しており、その知見を活かして労使ともにより安心して働ける環境が整ってきています。


社労士への外注が適した企業とは?

以下のような企業では、社労士への外注が特に有効です。

中小企業

専門の労務管理担当者を雇う余裕がない場合。

法令改正への対応が追いつかない企業

担当者が最新の法令を把握していない場合

トラブルが多発する企業

労働基準監督署への対応や、従業員とのトラブルが頻発する場合

成長企業

急速に従業員数が増加し、労務管理が複雑化している企業

まとめ

労務管理を社労士に外注することは、法令遵守や業務効率化、トラブル対応の迅速化など、多くのメリットを企業にもたらします。一方で、社内で労務管理を行う場合には、法令対応の遅れや専門性不足、業務負担の増加といったデメリットがあります。
また、特に中小企業や成長企業にとっては、社労士に外注することで得られる利益が大きいと言えます。

当事務所は労務コンサルティング・人事制度構築・ハラスメント対応・助成金申請が得意な事務所です。
経験豊富な社労士がチームで対応していますので、コンプライアンスに対応しリスクを低減できます。

社会保険労務士の支援を受けることは、単なる法令対応にとどまらず、企業の成長戦略の一環として機能します。支援を受ける企業の方が利益率が高く、経営の安定性が向上することがデータからも明らかになっています。社会保険労務士の支援は、従業員の満足度向上と組織の健全な発展につながります。
また、事業の継続・発展に不可欠な要素であり、経営課題の解決に向けた重要なステップとなるでしょう。









この記事を書いた人

太田裕子Yuko Ohta

社会保険労務士。助成金を活用しながら、女性活躍支援・生産性向上等の働き方改革のサポートが強み。安心安全な環境づくりで働く人の最高のパフォーマンスを引き出し、組織の業績を上げていく状態に導きます。

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