BLOG ブログ

介護休暇とは?企業が知っておくべき制度のポイントと介護休業との違いを社労士が解説

介護休暇とは?企業が知っておくべき制度のポイントと介護休業との違いを社労士が解説

介護休暇とは要介護状態にある家族の介護のために取得することができる休暇のことです。法に基づいた制度であり、社会課題である介護離職に対応するために活用が期待されています。本記事では、「介護休暇」とは何かを基礎から解説し、類似制度である「介護休業」との違いや、制度設計・運用の実務ポイントを社労士が解説します。

1. 介護休暇は働きながら介護をする社員を支える制度

高齢化の進展や核家族化の影響により、仕事と家庭内の介護を両立させることが、企業における労務管理上の重要な課題となっています。近年では、家族の介護を理由に離職する、いわゆる「介護離職」も増加傾向にあり、企業の人材確保・定着に直結する問題となっています。

こうした背景を受け、労働者が仕事を続けながら必要な介護を行えるよう、法律上、一定の介護関連制度が整備されています。そのひとつが「介護休暇」です。

2. 介護休暇とは?―法律上の定義と目的

「介護休暇」とは、従業員が家族の介護のために取得できる短期の休暇制度です。これは「育児・介護休業法」という法律で定められており、企業はこの制度を導入・運用する義務があります。

具体的には、要介護状態にある家族(後述)について、通院の付き添いや介護サービス利用に必要な手続きなどを行う際、1年間に最大5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで休暇を取得できます。

この制度は、長期的な介護に対応する「介護休業」と異なり、日々の付き添いや手続きといった「短期・一時的な対応」に利用される点が特徴です。

3. 介護休暇と介護休業の違いの比較

実務では、「介護休業」との混同や取得単位、給与の有無などについて誤解も多く見られます。

最も違うのは取得期間です。介護休業は一定期間休むことを前提とした制度であるため、休業期間の繰り下げや申出の撤回などの仕組みが法令で整えられています。しかし、介護休暇は突発的、短期的なお休みを可能にする制度であり、法令上は申出に関する定めしかありません。

用途としては、それぞれ下記のような用途で活用されています。

【介護休業:一定期間纏まった休みが取れるため、長期的・随時のケアが必要な場合】

  • ・施設入居前のつなぎ期間で自宅で食事・排泄などのケアを行う必要がある場合
  • ・入院していた家族が退院後も一定期間のケアを必要とする場合
  • ・急激な認知症の進行などにより常時付き添いが必要な場合

【介護休暇:当日申告でも取得できるため、突発的な対応が必要な時や短時間の予定の場合】

  • ・要介護者の通院の付き添いや入院・退院時の手続きなどが必要な場合
  • ・ケアマネジャーの面談など介護サービス利用に関する手続き・相談が必要なとき
  • ・要介護者が一時的に体調を崩したが短期で回復が見込まれるとき

以下は介護休暇と介護休業について表で整理したものです。

項目介護休暇介護休業
対象家族要介護状態にある対象家族
対象期間年間5日(家族2人以上で10日)通算93日(3回まで分割可)
利用目的通院付き添い、手続き対応など短期支援長期の介護対応
取得単位日・半日・時間単位で取得可能日単位で取得可能
給与支払いの必要性法律上の支払い義務はなし
公的な経済支援制度なし雇用保険の給付(介護休業給付金)の対象

4. 介護休暇の取得要件と注意点

介護休暇は法で定められた権利ですが、そのため様々な制約もあります。ここでは介護休暇を使うことができる要件について解説します。

対象となる家族の範囲

介護休暇の対象となる「家族」には、法律で明確な範囲が定められています。具体的には以下の通りです。

  • ・配偶者(婚姻届を提出していないが実質的に婚姻関係にある者を含む)
  • ・父母(義父母を含む)
  • ・子(養子を含む)
  • ・配偶者の父母
  • ・祖父母・兄弟姉妹・孫(一定の条件あり)

なお、対象家族と同居・別居しているかどうかに関わらず取得することができます。また、対象者を扶養しているかどうかも問われません。

適用されない従業員

日々雇用されている労働者(1日単位の雇用契約を繰り返す者)は、法律上、介護休暇の対象から除外されています。また、週の所定労働日数が2日以下の者については、労使協定により除外することも可能です。なお、この労使協定は労働基準監督署への届出は不要です。

なお、令和7(2025)年4月1日より、従前は労使協定によって適用除外を認められていた「継続して雇用された期間が6か月未満の労働者」は撤廃されています。同じフォーマットの労使協定を更新して活用している場合はご注意ください。

取得できる日数

取得できる日数は、対象家族の人数によって異なります。

       ・家族が1名まで 年5日まで    ・対象家族が2名以上 年10日まで

この「10日」は、複数の対象家族に分けて使用しなければならないという制限はなく、たとえ対象家族が2人以上いたとしても、1人の対象家族の介護のためだけに全日数を使用することが可能です。

なお、介護休暇が付与される年度は就業規則で会社の任意に定めることができますが、特に特に定めをしない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日となります。

取得できる時間の単位

介護休暇を取得できる時間の単位は1日、半日、1時間単位での取得が認められています。

しかし、半日や時間単位で取得することが困難と認められる業務に従事する労働者について、半日/時間単位での取得を除外する労使協定を締結している場合、1日単位でのみ取得することとなっています。

5. 介護休暇を導入・運用する際の実務ポイント

介護休暇は法で定められた休暇ではありますが、利用実績が少ない企業は整備のポイントがわからず、結果として労働者も利用しにくい状態になっていることが考えられます。そこで、導入・運用に当たってのポイントを下記に整理してお伝えします。

制度の明文化

就業規則や社内規程に、介護休暇の制度内容、取得単位、起算日(1年間の始まり)などを明記しておくことが望ましいです。特に、年次有給休暇の斉一的取扱い(有休を付与する基準日を入社日によらず同一日にする運用)を行っている場合は、併せて介護休暇についても基準日を規定しておくと良いでしょう。


なお、年度の途中で入社した社員であっても、5日または10日の介護休暇を付与する必要があります。また、年度内に介護対象家族が減少した場合であっても、すでに取得した日数をさかのぼって減らすことは認められていません。

労使協定の整備

業務の内容や性質によっては、労働者が個々に時間単位で介護休暇を取得すると業務自体が支障をきたすものもあります。労使協定を適切に結び、周知をすることでトラブルを避けるとともに、労働者にとって取得しやすい状態に整えていくことが必要です。

従業員への介護関連情報の提供

制度を形だけ導入するのではなく、従業員が適切に利用できるようにするためには、会社からの介護関連情報の提供が不可欠です。 たとえば以下のような情報提供が考えられます。

  • ・公的支援制度や地域包括支援センターの案内
  • ・ケアマネジャーの役割の周知や在宅介護サービスの紹介
  • ・仕事と介護の両立に関する社内研修やガイドブック配布
  • ・社会保険労務士や外部専門家による研修・セミナー

従業員が自分一人で情報収集・手続きに悩まなくて済む環境を整えることは、制度の活用を促進するうえで非常に効果的です。

介護休暇を取得した社員のロールモデル化

介護休暇制度が実際に活用されるためには、「取得しても不利益はない」という安心感が職場内に醸成されていることが重要です。そのために効果的なのが、介護休暇を取得した社員の経験を可視化し、ロールモデルとして紹介することです。例えば、下記のような取組が考えられます。

  • ・社内報やイントラネットで取得経験談を紹介
  • ・管理職による取得の容認姿勢の明示
  • ・「取得してもキャリアに影響しない」というメッセージの発信

これらの取組みにより、制度の利用に対する心理的ハードルが下がり、制度定着と介護離職防止の両立が期待できます。

6. 介護離職を防ぐ!助成金制度の活用

厚生労働省は、介護と仕事の両立支援に取り組む企業に対して「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」を用意しています。これは、介護支援プランの作成や独自の休暇制度など、法律を上回る支援を実施した企業に支給されるものです。

企業側にとっては、制度導入のコストを軽減できると同時に、従業員の離職リスクを抑える有効な手段となり得ます。

介護休暇にとどまらず、介護休業を活用する労働者がいる場合は、是非受給をご検討ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/001472912.pdf (介護離職防止支援コースの受給額の表)

※支給額は、令和7年度の金額です。休業取得/制度利用者1人当たりの金額で、 ①〜③それぞれ1事業主5人まで申請が可能です。制度利用期間に応じて増額があります。

※助成金の受給には要件があります。

7. まとめ:介護休暇の活用で、働き続けられる職場づくりを

介護は、誰にとっても突然やってくる可能性があるライフイベントです。企業として、従業員が安心して介護と仕事を両立できる環境を整えることは、人材の定着や職場の活力にもつながります。

「介護休暇」は、その第一歩として重要な制度です。労務担当者として、制度の趣旨や運用上の留意点を正しく理解し、社員に寄り添う仕組みづくりを進めていくことが求められます。

詳しくは、当事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

CONTACT
お問い合わせ

サービスのご依頼・当事務所へのご質問などは
以下のフォームからお気軽にお寄せくださいませ。