BLOG ブログ

【2024年11月施行】フリーランス新法で企業に課せられる4つの規律をポイント解説

【2024年11月施行】フリーランス新法で企業に課せられる4つの規律をポイント解説

多様な働き方のひとつとして注目されているフリーランス。フリーランスの権利を保証し、取引の健全化を図る目的で法令が施行されます。この記事では法施行によりフリーランスと仕事をする企業が考慮すべき影響やポイントについて社労士が解説します。

1)フリーランスとは? 実態調査を解説

フリーランスは法令上の定義ではありませんが、政府が作成した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では下記のように定義されています。

下記①~③を満たす者:
 ① 実店舗がなく
 ② 雇人がいない自営業主や一人社長で
 ③ 自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得ている者


令和4年の政府調査では、日本におけるフリーランスの数は250万人、有業者に占める割合は3.8%という結果になりました。うち、本業がフリーランスである人は209万人、副業がフリーランスである人は48万人と、圧倒的に本業がフリーランスであることがわかります。また、男女比ではフリーランスの約7割を男性が占め、年齢階層では「45~49歳」が24.5万人で最も多くなっています。

フリーランスとして働くことを選んだ理由としては「多様な専門的な技能等を生かせるから」32.5%が最も多く、次いで「自分の都合のよい時間に働きたいから」29.5%という結果になりました。

しかし、フリーランスの就労は不安定なものになりがちです。民間会社の調査では、フリーランスという働き方に対する興味について「はい」と回答したのは26.3%。収入が不安定そう、仕事の時間が増えそう、仕事の難易度が増えそうなどの理由で興味がないと回答した人の割合は73.7%に上ります。

こうしたイメージを裏付けるように、フリーランスに対する調査では「就業環境(働く時間/場所など)」「仕事上の人間関係」「達成感/充実感」「プライベートとの両立」といった働き方に関する満足度はいずれも5割を超える一方で、「収入」に対する満足度は30.9%、「社会的地位」に対する満足度は27.6%にとどまっています。

働き方改革によって労働時間の削減が進んだり、リスキリングの必要性などから副業としてフリーランスの働き方を選択する人もいるのですが、多くの場合フリーランスは不安定な立場に立たされることが多い状況です。2023年から始まったインボイス制度について、登録により新たに発生する納税負担分(年間売上1000万未満の小規模事業者の場合は約2%)について、 発注事業者に価格転嫁できたフリーランスは17.2%にとどまりました。

フリーランスの多くは人脈から案件獲得に至っており、知人に対して料金交渉をすることが難しいという事情もこうした数字の背景にあると思われます。

参照:基幹統計として初めて把握したフリーランスの働き方 ~令和4年就業構造基本調査の結果から~|総務省

参照:フリーランスに興味はある?フリーランスに対する興味関心を調査!|テレリモ総研

参照:「フリーランス白書 2024」|一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会





2)フリーランス新法とは?

こうしたフリーランスの現状を鑑み、政府は2023年4月、フリーランス労働者の権利保護を目的として「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、フリーランス新法)」を成立させました。

「フリーランス新法」は、フリーランスとして働く労働者の労働環境を改善し、その権利を保護するために制定された法律です。この法律は、特に業務委託契約に基づいてフリーランスと取引を行う企業に対して、労働者の権利を侵害しないようにする義務を課しています。

フリーランス新法におけるフリーランスの定義

フリーランス新法では、フリーランスのことを特定受託事業者と呼び、下記のように定義しています。

 
特定受託事業者とは下記すべてを満たす者
 ①業務委託契約の相手方になっている事業者
 ②従業員を使用していない
 ③代表者以外に他の役員がいない


つまり、下記がこの法令の保護対象になります。
 ① 業務委託で仕事を受け、フリーランスで働く個人
 ② 業務委託で仕事を受け、他の役員や従業員がいない法人なりしている法人代表者

前掲前掲のガイドラインの定義とは異なり、「業務委託をしている」という点が大きなポイントになっています。

なお、その事業を家族のみで事業を行っている場合で、役員になっていない場合はその家族は従業員に含まれません。したがって、例えば夫がフリーランスの仕事を受け、妻がその仕事を手伝っているような場合は、この法令で保護される対象になります。

なお、この法令では発注先になる企業のことを「業務委託事業者」と読んでいます。業務委託事業者はその要件に応じて異なる義務を課しています。

フリーランス新法の内容

フリーランス新法は、主に2つの内容で構成されています。
①フリーランスに対する取引の適正化
②フリーランスの就業環境の整備

①の取引の適正化に係る規定については、主に公正取引委員会及び中小企業庁が管掌し、②の就業環境の整備に係る規定については主に厚生労働省が執行を担うことになります。



3)フリーランス新法によって企業が行う4つの規律

フリーランス新法によって、企業はフリーランスと業務委託契約を結ぶ場合、就業環境の整備に関する以下の4つの規律を行うことになりました。

 ① 募集情報の的確表示
 ② 育児介護等と業務の両立に対する配慮
 ③ ハラスメント対策に係る体制整備等
 ④ 中途解除等の事前予告及び理由開示

それぞれの内容は下記の通りです。

①募集情報の的確表示

業務委託による募集を行う場合は、その募集に関する情報について虚偽の表示、誤解を生じさせる表示をしてはいけません。また、募集に関する情報は正確かつ最新の情報にしなければなりません。

この募集に関する情報には必ずしも契約時に明示すべき事項が網羅的に書いてある必要はありませんが、トラブル防止の観点から、例えば以下のような内容については可能な限り開示することが望ましいとされています。
・業務の内容
・業務に従事する場所、期間または時間に関する事項
・報酬に関する事項
・契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合も含む)に関する事項
・受託可能なフリーランスの条件(業績など)

企業においては募集が終了した際も募集情報の掲載を続けている場合も古い情報の掲示になってしまうため、速やかに募集終了した旨を記載する対応が必要になります。

②育児介護等と業務の両立に対する配慮

6か月以上の期間に及ぶ業務委託契約によってフリーランスと契約する場合、企業はフリーランスの申し出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。

この「6か月」という期間は当初から6か月を超える場合だけでなく、契約を更新した結果も含まれます。また、一定期間を開けて再度契約に至った場合は、前の契約と同一の内容で契約し、かつ契約と契約の間の期間が1か月空いていない場合に含まれます。

配慮の仕方については、下記の4点に留意しつつ、個別に対応することになります。育児介護等に関する情報はプライバシーに関わるものもあるため、その点にも注意しましょう。
・配慮の申し出の内容などの把握:どんな希望があるのか申し出を聞き、把握する
・配慮の内容または取りえる選択肢の検討:希望に基づいて企業ができる選択肢について検討する
・配慮の内容の伝達および実施:配慮の内容を決定したら速やかにフリーランスへ通知する
・配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明:そもそも契約の履行が難しくなるなど配慮を行うことが難しい場合は、理由を添えて説明する。

配慮の具体例としては、下記のようなものが考えられます。
・子の急病や家族の看護が発生した場合、予定納期を数日繰り下げる。
・子の発熱等の事情がある場合に予定していた訪問を取りやめ、別日に振り替える、またはオンラインにて対応する。

企業はあくまでも申し出があった場合に対応することが求められ、また、必ずしも申し出の内容そのものを実現する必要はありません。ただし、こうした申し出があった場合に柔軟に対応できるよう、契約に当たってのスケジューリングは余裕を持たせるなどの対応をしておくとよいでしょう。

③ハラスメント対策に係る体制整備等

企業は、フリーランスに対するセクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティ(パタニティ)ハラスメントによって、フリーランスの就業環境を害することのないよう、企業は下記の対応を講じる必要があるとされています。

・相談対応のための体制整備その他の必要な措置を取ること。具体的には、ハラスメンㇳに対する方針の明確化とその周知、ハラスメント相談窓口の設置等、ハラスメントが起こったときの対応などを含む措置を適切に行うこと。
・フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことなどを理由に、契約解除や報酬の減額などの不利益な取り扱いをしないこと。

フリーランスは会社のような組織に守られていないため、取引相手からのハラスメントを受けやすかったり、ハラスメントを受けた場合でも経済的な理由から取引を続けざるを得ないなどの問題があります。そのような事態を防ぐため、フリーランスと取引をする企業は事前にこうした措置を講じる必要があります。

当所ではハラスメントに対して多くの事例と経験をもとに企業の皆様をサポートします。


④中途解除等の事前予告及び理由開示

フリーランスとの定期的に業務委託契約の解除や、更新を予定している継続的契約を更新しない場合、企業は少なくとも30日前までにその旨を予告しなければなりません。また、その理由についてフリーランスが開示を求めた場合は、第三者の利益を害するなどの場合を除いて書面やメールで遅滞なくこれを開示することになりました。

ただし、その契約解除や更新しない理由がフリーランスの責めに帰すべき理由である場合で、直ちに契約解除する必要があるときなど、一定の要件に該当した場合はこの限りではありません。


4)企業がフリーランスを使用する際の注意点

フリーランス新法の成立を受け、企業側はフリーランスとの業務委託契約を結ぶ際に、従来以上に慎重になる必要があります。以下は、企業がフリーランスを活用する場合に気を付けるべき重要なポイントです。

①フリーランスであっても「労働者」と判断される場合がある

形式的には業務委託契約であっても、実態として契約の相手先となる企業の指揮命令下で就労していると判断される場合、労働法の適用においては労働者とみなされる場合があります。その場合は労働基準法をはじめとする各法令が適用されることに留意する必要があります。

②適切な契約を設定し、明確な書面に作成する

フリーランスと業務委託契約を結ぶ場合は、フリーランス新法に則り、次のような点に注意して契約書を作成する必要があります。口頭での契約はトラブルに発展しやすいため、適切に書面を作成することが重要です。

・業務内容や成果物の範囲を詳細に記載する
委託内容や何をもって成果物とするかなどを定義しておくと、後々のトラブルを避けることができます。曖昧な指示や範囲の変更が頻発すると、フリーランス側が不満を感じる原因にもなりかねず、また会社にとっても望むような成果が得られない場合に交渉が困難になります。


・報酬と支払い条件を明確に定める
報酬額、支払い時期、支払い方法を契約書に明示し、支払い遅延を避けるための対策を講じましょう。フリーランス新法では、報酬の遅延に関しても罰則が強化されており、支払いの遅れは法律違反に直結する可能性があります。


・契約解除条件を設定する
フリーランス新法によって中途解約の予告が義務化されたこともあり、双方にとって納得のいく形で事前に契約解除条件を定めておくことも大切です。フリーランスが突然仕事を辞めることがないよう、また企業側も業務中途での契約解除を容易にしないよう、バランスの取れた条項を設定しましょう。

当所ではこうした内容も踏まえ、双方ご納得いくかたちでの書面作成もサポート実績がございます。お気軽にお問い合わせください。


③コンプライアンスの徹底

フリーランス新法の施行により、企業側にはフリーランス労働者に対しても、一定の法的義務が課されています。これには労働基準法や安全衛生法に準じた対応も含まれ、フリーランスがオフィス内で業務を行う場合には特に注意が必要です。

さらに、フリーランス新法により、不当な契約や報酬の支払い遅延が発覚した場合、企業には罰則が科せられるリスクがあります。特に経営者や管理監督者は、法的なリスク回避のためにフリーランスとの業務委託契約について事前に労働者性が認められる余地がないかどうか、吟味しておく姿勢が求められます。

④セキュリティ・情報漏洩リスク対策を講じる

フリーランスに対しオンライン上でやり取りをする場合は、デジタル環境の整備も重要です。クラウドシステムやセキュリティ対策が不十分だと、業務の効率に影響を及ぼすだけでなく、情報漏洩などのトラブルにつながる可能性があります。こうしたリスクを回避するためにも、最新のセキュリティ対策を講じることが不可欠です。

⑤ 知的財産権の取り扱いについて取り決める

フリーランスが提供するサービスや製品の中には、知的財産権が関わるケースが多く存在します。そのため、契約締結時に、知的財産権の取り扱いを明確にしておくことが重要です。例えば、作成したデザインやコンテンツの著作権は誰に帰属するのか、再利用の許可範囲などについて詳細に取り決めておくことが求められます。

このような事前の取り決めがなされていない場合、後々のトラブルに発展する可能性がありますので、注意が必要です。

当所では知財権にも配慮した契約書の作成も実績がございますので、ぜひお気軽にご相談下さい。


⑥コミュニケーションツールの確認とスケジュールの確保をする

フリーランスとの進捗報告のポイントは密なコミュニケーションです。定期的なミーティングや進捗確認を行うことで、プロジェクトが円滑に進むようサポートしましょう。また、コミュニケーションはどのような方法にて行うのか、ツールの使い分けなども契約前に検討しておくとよいでしょう。

フリーランスとの契約もコンプライアンスを重視して

「フリーランス新法」の成立は、フリーランスとして働く人々にとって大きな進展であると同時に、企業にとっても新たな課題をもたらします。企業がフリーランスを活用する場合、契約内容の適正化、報酬支払いの徹底、安全衛生への配慮、そしてコミュニケーションの強化が求められます。これらの点をしっかりと押さえ、フリーランスを適切に活用することで、企業とフリーランスの双方にとって良好な関係を築くことができるでしょう。

当所では副業受け入れ伴走支援や制度構築に詳しい社労士が豊富な事例をもとにトラブル防止に資する契約書の作成・確認や、共創に関する制度導入のご提案を致します。
ぜひお気軽にご相談ください。





この記事を書いた人

村井 真子Murai Masako

社会保険労務士/キャリアコンサルタント。総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所などでの行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務めた。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計が強み。

CONTACT
お問い合わせ

サービスのご依頼・当事務所へのご質問などは
以下のフォームからお気軽にお寄せくださいませ。