現代のビジネスにおいて、「平等」と「公平」は組織運営の中でしばしば議論される重要な概念です。しかし、この2つの概念は混同されがちで、かつ組織において納得性を得るための対話が困難になる状況も見られます。本記事では、ダイバーシティ実践に取り組む社労士の視点から、平等と公平の違いを明らかにし、企業がどのように公平性を担保すればよいかを解説します。
ダイバーシティ経営における「公正」の重要性
公平性を確保することは、ダイバーシティ経営やDEIの考え方において不可欠なものです。
現在、企業には様々な社員が働いています。社員一人ひとりがそれぞれ異なるバックグラウンドやスキルを持っているため、その全員を平等に扱うだけでは、企業の成長や革新を促進することはできません。むしろ、公平な対応を通じて、それぞれが持つポテンシャルを最大限に引き出すことが、組織全体のパフォーマンスを向上させる鍵となります。
ダイバーシティを推進するためには、全従業員が公平な機会を享受できるよう、日々の業務の中で意識的に取り組む必要があります。
現在、企業には様々な社員が働いています。社員一人ひとりがそれぞれ異なるバックグラウンドやスキルを持っているため、その全員を平等に扱うだけでは、企業の成長や革新を促進することはできません。むしろ、公平な対応を通じて、それぞれが持つポテンシャルを最大限に引き出すことが、組織全体のパフォーマンスを向上させる鍵となります。
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企業における「公平」の難しさ:企業における課題
企業において平等を担保することは、実はそれさえ決めてしまえば実行可能です。しかし、平等の考え方を進めていくことで公平性が損なわれるリスクもあります。全員に一律の制度を適用することで逆に一部の従業員に不利な状況をもたらすこともあるのです。
例えば、期間あたりの成果(パフォーマンス)で評価することは平等な措置ですが、時間的に制約がある社員はそうではない社員に比較して時間を投下することが難しくなり、同等の成果を挙げることは難しくなります。また、希望者に対し平等に教育機会の提供を行うという意味で集合研修を行うなどの措置は平等ですが、物理的にその会場に行くための時間が参加者によって不均衡になりすぎる場合は実質的な公平性が担保されているとは言えません。
また、公平な扱いを進める過程で一部の社員を優遇している、という批判を受けることもあります。公平性を確保しようとする努力が、逆に一部の従業員に対して特別な待遇を与えていると誤解され、不満を生むという状況です。ここでは、よく取り上げられる2つの場面について例を挙げます。
例えば、期間あたりの成果(パフォーマンス)で評価することは平等な措置ですが、時間的に制約がある社員はそうではない社員に比較して時間を投下することが難しくなり、同等の成果を挙げることは難しくなります。また、希望者に対し平等に教育機会の提供を行うという意味で集合研修を行うなどの措置は平等ですが、物理的にその会場に行くための時間が参加者によって不均衡になりすぎる場合は実質的な公平性が担保されているとは言えません。
また、公平な扱いを進める過程で一部の社員を優遇している、という批判を受けることもあります。公平性を確保しようとする努力が、逆に一部の従業員に対して特別な待遇を与えていると誤解され、不満を生むという状況です。ここでは、よく取り上げられる2つの場面について例を挙げます。
育児休業や介護休暇の特例措置に対する不満
企業が育児や介護を行う従業員に対して、フレックスタイム制度やリモートワークの導入、休暇の拡充などを進める場合、これらの制度の恩恵を受けられない他の従業員が「自分たちは特別扱いされていない」と感じることがあります。特に、子育てをしていない独身者や、介護の必要がない従業員が、「自分たちも同じように大変なのに、特定の人だけが優遇されているのではないか」と不満を抱くという構造です。
女性のリーダーシップ研修
女性従業員のキャリア育成を目的として、リーダーシップ研修やメンター制度を女性限定で提供する場合、男性従業員の中には「女性が特別扱いされている」と感じることがあります。特に男性社員が多い職場では、これまで「男女平等」が主張されていたのに、女性だけが特別な機会を与えられていると認識され、不満や反発を招く可能性があります。彼らにとっては、性別に基づいた特権が女性にだけ与えられたように感じるという構造です。
このような不満の背景には、「公平」と「平等」の違いに対する誤解があります。これは特に、働き方の多様化が進む現代において、より重要な課題となっています。
このような不満の背景には、「公平」と「平等」の違いに対する誤解があります。これは特に、働き方の多様化が進む現代において、より重要な課題となっています。
企業における「平等」と「公平」の違い
「平等」と「公平」という言葉は、一見似ているようでありながら、実際には異なるものです。
平等はすべての人に同じ条件を提供することを指します。例えば、全従業員に同じ福利厚生を提供する、または同じ基準で給与を決定することということが平等の例です。
一方で、公平は個々の状況に応じた対応を行い、すべての人が同じ機会を得られるように調整することを意味します。たとえば、障害者に対して合理的な配慮を行い、その人が能力を最大限に発揮できるような環境を整えることが公平性の一例です。
平等な待遇の例
●同一労働同一賃金
●就労方法にかかわらず福利厚生制度を利用できる状況の確保
●全員に共通の評価尺度を適用する
●働いた時間で評価する
●性別・年齢・国籍などにかかわらず均等な昇進・昇格の機会の提供
●性別・年齢・国籍などにかかわらず教育を受ける機会の提供
公平な待遇の例
●多様な働き方ができる環境の整備
●障がいのある社員に対する合理的配慮
●個々の事情を勘案した評価尺度を適用する
●時間当たりで出した成果で評価する
●教育や研修については対面だけではなく複数のプラットフォームを用意する
難しく考えられがちですが、公平性の本質は、「組織における全員がちゃんと平等になるようにスタートラインをそろえよう」ということです。スタートラインが目に見える、あるいは目に見えない障害があって実は別々なのだという場合、そもそも同じ土俵で評価をすることは困難です。そのようなスタートラインをそろえる手続きが公平性の担保というプロセスになります。
平等はすべての人に同じ条件を提供することを指します。例えば、全従業員に同じ福利厚生を提供する、または同じ基準で給与を決定することということが平等の例です。
一方で、公平は個々の状況に応じた対応を行い、すべての人が同じ機会を得られるように調整することを意味します。たとえば、障害者に対して合理的な配慮を行い、その人が能力を最大限に発揮できるような環境を整えることが公平性の一例です。
平等な待遇の例
●同一労働同一賃金
●就労方法にかかわらず福利厚生制度を利用できる状況の確保
●全員に共通の評価尺度を適用する
●働いた時間で評価する
●性別・年齢・国籍などにかかわらず均等な昇進・昇格の機会の提供
●性別・年齢・国籍などにかかわらず教育を受ける機会の提供
公平な待遇の例
●多様な働き方ができる環境の整備
●障がいのある社員に対する合理的配慮
●個々の事情を勘案した評価尺度を適用する
●時間当たりで出した成果で評価する
●教育や研修については対面だけではなく複数のプラットフォームを用意する
難しく考えられがちですが、公平性の本質は、「組織における全員がちゃんと平等になるようにスタートラインをそろえよう」ということです。スタートラインが目に見える、あるいは目に見えない障害があって実は別々なのだという場合、そもそも同じ土俵で評価をすることは困難です。そのようなスタートラインをそろえる手続きが公平性の担保というプロセスになります。
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企業における公平性の実現のための社員からの自己開示の重要性
企業における公平性を実現するためには、社員の個別具体的な事情に応じた対応が求められます。すべての従業員が異なる背景や状況を持っており、それに応じたサポートが必要です。しかし、この個別対応をするためには、企業が社員自身からそうした事情の自己開示を得る必要があります。
こうした背景のもと、その情報に最もアクセスしやすい管理職には多くの負担がかかります。プライバシーに関する情報を管理職者のほうから聞き出すことはハラスメントリスクの観点から難しく、接する時間の長い管理職者が部下に対して観察眼を発揮するとともに、部下からの自己開示を情報源とせざるを得ない状況があるからです。管理職者は部下と十分な信頼関係を構築する必要がありますが、部下と管理職者は十分な対話の機会をもったとしても、本音での会話が可能かどうかという点は疑わしいものがあります。ある調査では、上司上司との面談で41.6%が「全く本音で話していない」と回答しています。本音で話せる割合が「2割未満」を合わせると、過半数の従業員が、上司との面談において本音・本心をほとんど話していないのです。
公平性を実現するためには、前提としてこのような状況を踏まえ、配慮を求める社員から個別具体的な事情を伝えやすい仕組みづくりを行うことが必要になります。社員一人ひとりのニーズを把握し、適切なサポートを提供するために、企業は無意識のバイアスに注意を払いながら公平な対応を心掛けることが重要になります。
こうした背景のもと、その情報に最もアクセスしやすい管理職には多くの負担がかかります。プライバシーに関する情報を管理職者のほうから聞き出すことはハラスメントリスクの観点から難しく、接する時間の長い管理職者が部下に対して観察眼を発揮するとともに、部下からの自己開示を情報源とせざるを得ない状況があるからです。管理職者は部下と十分な信頼関係を構築する必要がありますが、部下と管理職者は十分な対話の機会をもったとしても、本音での会話が可能かどうかという点は疑わしいものがあります。ある調査では、上司上司との面談で41.6%が「全く本音で話していない」と回答しています。本音で話せる割合が「2割未満」を合わせると、過半数の従業員が、上司との面談において本音・本心をほとんど話していないのです。
公平性を実現するためには、前提としてこのような状況を踏まえ、配慮を求める社員から個別具体的な事情を伝えやすい仕組みづくりを行うことが必要になります。社員一人ひとりのニーズを把握し、適切なサポートを提供するために、企業は無意識のバイアスに注意を払いながら公平な対応を心掛けることが重要になります。
企業における公平性実現のための措置
公平性を確保するための取組として、「合理的配慮」や「ポジティブアクション」などの考え方があります。ここではそれらを具体的な例と共に紹介します。
合理的配慮
合理的配慮とは、日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障がいの有無によって実質的にその利用や活動などが制限されてしまうことを鑑み、その社会的なバリアを取り除こうとするものです。障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。
合理的配慮は具体的には行政機関等と事業者が、次のような措置を講ずるものとされています。
例えば、以下のようなものが合理的配慮に当たります。
合理的配慮は法で定められたものではありますが、限られた人材のポテンシャルを最大限発揮するためには積極的に取り組むべきものと言えるでしょう。
合理的配慮は具体的には行政機関等と事業者が、次のような措置を講ずるものとされています。
①その事務・事業を行うに当たり、
②個々の場面で、障害者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合に
③その実施に伴う負担が過重でないときに
④社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること
例えば、以下のようなものが合理的配慮に当たります。
●聴覚障がいがある社員には、口頭だけではなくテキストでも伝達するよう周知する
●混雑時に通勤することが困難である事情を持つ社員に対応するために、時差出勤制度を導入する
●連続して着座することが難しい社員のために、休憩時間をまとめて60分ではなく、本人の希望する流さで取れるように配慮する
合理的配慮は法で定められたものではありますが、限られた人材のポテンシャルを最大限発揮するためには積極的に取り組むべきものと言えるでしょう。
アファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)
アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)とは、人種や性別に基づく差別を歴史的に受けてきたグループに対して、積極的に平等な機会を提供するための法的施策を指します。
ポジティブ・アクション(積極的改善措置)はアファーマティブ・アクションの考え方のうち、日本においては特に男女の格差の是正を目的として行われています。 女性従業員を対象にしたリーダーシップ研修やメンタリング制度を導入し、キャリアアップの機会を増やすことなどがこれに相当します。また、「管理職の30%を女性にする」」といった具合に、あるポストにおいて女性が一定の割合を占めるように枠を設定する制度(クオータ制)などもこれに該当します。これにより、男性が多くを占める管理職ポジションに女性を積極的に登用しようとする取り組みが進められます。
ポジティブ・アクション(積極的改善措置)はアファーマティブ・アクションの考え方のうち、日本においては特に男女の格差の是正を目的として行われています。 女性従業員を対象にしたリーダーシップ研修やメンタリング制度を導入し、キャリアアップの機会を増やすことなどがこれに相当します。また、「管理職の30%を女性にする」」といった具合に、あるポストにおいて女性が一定の割合を占めるように枠を設定する制度(クオータ制)などもこれに該当します。これにより、男性が多くを占める管理職ポジションに女性を積極的に登用しようとする取り組みが進められます。
管理職者のためのリーダーシップトレーニング
企業において社員全員に対する公平な処遇を実現するには、社員一人一人が個人的に配慮をもとめる事情にも配慮する必要があります。例えば障がい者手帳をとるほどではないが感覚過敏があったり、自身の持病の闘病などで目に見えないけれど社会的なバリアがある社員もいるからです。
こうした社員からの事情聴取の窓口になることの多い管理職自身も、実は不公平扱いを受けてきた可能性があります。なぜなら、管理職は、しばしば「出来る人」として、他の従業員の負荷を引き受ける立場にあるからです。これは、管理職が企業内での公平性を維持するために、自身が不公平な負担を強いられることが多い現状を反映しています。特に、業務量の負荷や過重な責任感は、彼らにとって大きな負担となり、それ自体が「自分が不公平に扱われている」と感じさせる状況を生み出しています。
このような管理職の負担は、報酬での還元を行うほか、組織全体でのサポート体制やリーダーシップトレーニングによって軽減されるべきものです。管理職に皺寄せのいかない公平な職場環境を整えることは、持続的な企業の発展とそのためのマネジメント機能を確保するためにも重要です。
こうした社員からの事情聴取の窓口になることの多い管理職自身も、実は不公平扱いを受けてきた可能性があります。なぜなら、管理職は、しばしば「出来る人」として、他の従業員の負荷を引き受ける立場にあるからです。これは、管理職が企業内での公平性を維持するために、自身が不公平な負担を強いられることが多い現状を反映しています。特に、業務量の負荷や過重な責任感は、彼らにとって大きな負担となり、それ自体が「自分が不公平に扱われている」と感じさせる状況を生み出しています。
このような管理職の負担は、報酬での還元を行うほか、組織全体でのサポート体制やリーダーシップトレーニングによって軽減されるべきものです。管理職に皺寄せのいかない公平な職場環境を整えることは、持続的な企業の発展とそのためのマネジメント機能を確保するためにも重要です。
アンコンシャス・バイアスについての学びの場の提供
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)と呼ばれるもので、自分の無意識の偏見や思い込みから偏ったモノの見方をしてしまうことを言います。これらは過去の経験や自分の知見から日々生まれてくるものであり、自分自身では気づきにくいという特徴があります。
アンコンシャス・バイアスがあると、対話をしようとした二者間での前提がずれていることに気が付かず、結果として公平性が阻害されたり、不満の種になることがあります。情報をフラットに扱い、個別対応が必要な場面で適切な判断を下すためのトレーニングとして、アンコンシャス・バイアスに関する知見を得ることは重要です。
アンコンシャス・バイアスがあると、対話をしようとした二者間での前提がずれていることに気が付かず、結果として公平性が阻害されたり、不満の種になることがあります。情報をフラットに扱い、個別対応が必要な場面で適切な判断を下すためのトレーニングとして、アンコンシャス・バイアスに関する知見を得ることは重要です。
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村井社会保険労務士事務所のダイバーシティプログラム
公正性を担保することで働きやすい職場環境を実現できる
企業における公平性の確保やダイバーシティ施策の目的は、単なる弱者優遇ではありません。現在そこにある誰かにとって不均衡、不利な状況を是正することによって、長期的に組織全体の公平性を高めることにあります。つまり、真の意味で平等な職場環境を実現するための手段であり、これまで平等に競争する機会がなかったグループに対して、その機会を積極的に提供することが重要です。
公平な処遇は一律に規定できるものではなく、それゆえの困難もありますが、社員からの理解と合意形成を丁寧に進めることでより働きやすく生産性の高い組織づくりができるでしょう。ぜひ、村井社会保険労務士事務所のダイバーシティプログラムを貴社の組織改革にお役立てください。
公平な処遇は一律に規定できるものではなく、それゆえの困難もありますが、社員からの理解と合意形成を丁寧に進めることでより働きやすく生産性の高い組織づくりができるでしょう。ぜひ、村井社会保険労務士事務所のダイバーシティプログラムを貴社の組織改革にお役立てください。